「芸術は人生を模倣する」と言われる。ただしひねくれ者の作家オスカー・ワイルドは、むしろ「人生が芸術を模倣する」のだと言ってのけた。
もし前者が正しいのであれば、今の映画やテレビに「金持ちを食ってやれ」タイプの作品があふれているのは、私たち庶民が1%の富裕層への不満と、ロビン・フッド的な義賊への期待を募らせていることの証しと言っていい。
いちいち番組名を挙げるのは控えるが、この手の番組に出てくる金持ちたちは薄っぺらで、骨の髄まで腐っていて救い難く、最後には当然の報いを受ける哀れな者たちだ。
アップルTVプラスのドラマ『フレンズ&ネイバーズ』もこの系譜。4月からシーズン2が始まっているが、ジョン・ハム演じる主人公の「クープ」ことアンドリュー・クーパーはヘッジファンドの会社で荒稼ぎしていた。しかし、なぜか解雇され、今は失業中。それでも昨日までのリッチな暮らしを手放せず、友人や隣人たちから金品を盗んでは帳尻を合わせている。
私生活も複雑で、元妻(アマンダ・ピート)との間に10代の子供2人、精神疾患を抱えた妹に加え、新たな恋人(オリビア・マン)もいる。
2013年のソフィア・コッポラ監督作品『ブリングリング』はセレブの暮らしに憧れる若者たちの稚拙な窃盗ライフを描いた映画だったが、これは、その中年版。『ブリングリング』の若者たちは逮捕されたが、こちらは巧みに(少なくとも今のところは)犯行を繰り返している。
でも、そういう話で金持ちライフを笑い飛ばしたいならリアリティー番組のほうがよくはないか。残念ながら、このドラマは笑えない。主人公クープの冷めたモノローグを通じて、彼が属する特権階級の愚かさを皮肉ろうとしているらしいが、しらけるだけだ。少なくともシーズン1を見た限り、やたら目につくのは豪邸やスーパーカーや超高級腕時計だけで、あとはありきたりの家族ドラマだ。
『フレンズ&ネイバーズ』シーズン2予告編
嫌悪の裏側にある魅力
「金持ちを食ってやれ」系の風刺作品として成立させるには、ゴージャスな暮らしにそこそこのトラブルを加えて家族内の対立や緊張を見せつけるだけでは不十分だ。贅沢な暮らしへの憧れそのものを覆し、格差を生み出すシステムやそれを支える人々の欠陥まで暴き出さないといけない。
例えば『ホワイト・ロータス』や『ビッグ・リトル・ライズ』などの人気ドラマは、視聴者に「憎らしいけど目が離せない」と思わせるほど滑稽な人物像を描くことで成功してきた。だが『フレンズ&ネイバーズ』から伝わるのは嫌悪感だけ。裕福な主婦がアルコール依存症で、その夫が家政婦と不倫中で、10代の息子がドラッグに溺れる設定ぐらいでは、今の視聴者を引き込めない。
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【note限定公開記事】『フレンズ&ネイバーズ』と『リアル・ハウスワイフ』 富裕層風刺はどちらが本物か
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