Kentaro Sugiyama

[東京 13日 ロイター] - 中東情勢の緊迫化が企業の賃上げ余力に及ぼす影響が懸念されている。企業の規模や業種に加え、サプライチェーン上の位置や価格転嫁力の違いによって打撃の度合いはまちまちだが、景気が大きく下振れして労働需給が緩む局面まで至れば、賃上げ率は3%台まで落ち込むリスクも指摘されている。この先、賃上げは「細分化した格差の拡大」という様相を強めそうだ。

連合が12日発表した2026年春闘の5次集計では、ベースアップと定期昇給を合わせた賃上げ率が平均で5.05%と、目標に掲げている「5%以上」を確保した。例年、集計回数が進むにつれて鈍化する傾向がある中、中堅・中小組合の健闘を指摘する声がある。

ただ、1次集計から3次集計にかけて賃上げ率の下方修正幅は前年より大きい。25年は0.04ポイントだったのに対し、今年は0.17ポイントだった。伊藤忠総研の高野蒼太・副主任研究員は「春闘を早期に妥結できる大企業や体力のある企業、中小でも売り上げが伸びている企業は高い賃上げ率を提示できる一方、厳しい企業は賃上げ余力が乏しくなっている」と解説する。

2026年度(27年3月期)は企業収益のばらつきが鮮明となりそうだ。SMBC日興証券がまとめたTOPIX採用企業の純利益見通し(12日時点、開示済み536社)では、AI・半導体需要を背景に電気機器が前年比46.5%増、精密機器38.1%増と好調な一方、石油・石炭製品が44.4%減、倉庫・運輸関連業が38.1%減、空運業が32.8%減、輸送用機器が17.4%減と、業種間で明暗が分かれている。

例年賃上げの相場形成をけん引するトヨタ自動車も、純利益が前年比22.0%減になる見通しを示した。営業利益段階で、トランプ米政権の関税影響を1兆3800億円と見積もったほか、中東情勢の影響も計6700億円の押し下げ要因になると見込む。大企業でコスト増や供給制約が収益を圧迫し始めれば、中小企業の価格転嫁や賃上げ原資の確保にも影響が及びかねない。

東京商工リサーチが4月に公表したアンケート調査によると、中東情勢について「事業にマイナスの影響がある」と回答した企業が78.7%に達した。原材料費や燃料費、物流費の上昇が収益を圧迫し、影響は製造業にとどまらず、小売やサービスなど内需型産業にも広がっている。

企業の賃上げ余力には、中東情勢が緊迫化する前から企業規模間でばらつきがあった。帝国データバンクが2月に公表した調査によると、従業員5人以下の企業で賃金改善を実施しない割合が突出しており、小規模企業の厳しい実態が浮かんだ。同社の窪田剛士・主席研究員は「小規模企業は賃上げの原資を確保するのが難しい傾向にある」とし、業績が伴わない中での賃上げには限界があると話す。

製造業は円安の恩恵がある一方、外部リスクとコスト高に直面している。非製造業も物価高と価格転嫁の壁という制約があり、それぞれ厳しさを増している。大和証券の末広徹チーフエコノミストは「横並びで賃上げしてきた中、一部で厳しいという声が出ると全体的な機運が弱まるおそれがある」と話す。27年春闘は「影響を受けるところと受けないところで一段と2極化が進む」とみている。

また、同じ業種内でも格差は広がり得る。伊藤忠総研の高野氏は、生産拠点の所在地やサプライチェーンにおける中東依存度、省力化やAI投資の進展度などによって、企業の対応力に差が生じるという。

高野氏は、中東情勢の影響が原油価格の高止まりにとどまる場合、物価上昇が賃上げ交渉を後押しする側面もあり、2027年は4%台の賃上げ維持が可能との見方を示す。一方、供給制約が深刻化し、生産や物流に支障が広がれば状況は一変。景気が下振れし、労働需給が緩む局面となれば賃上げ率が3%台まで低下してもおかしくないと話す。

(杉山健太郎 編集:橋本浩)

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