Matt Spetalnick Andrea Shalal
[9日 ロイター] - トランプ米大統領はドイツ駐留米軍の一部撤収を決定し、欧州各地でのさらなる兵力削減も示唆した。重要な湾岸同盟国に対するイランの攻撃も軽視した。こうした一連の動きは、今回の戦争が残し得る最も深い傷跡――主要同盟国との関係の亀裂――をすでに予示している。
米国とイランが10週間に及ぶ戦争の出口を模索し、歩み寄りつつある今も、トランプ氏の言動は欧州から中東、インド太平洋に至るまで、米国の長年の友好国に改めて不安を呼び起こしている。将来の危機において米国は本当に頼りになるのか、という疑念だ。
米国の長年の同盟国の一部はすでにリスク分散に動き始めており、対米関係に長期的な変化が生じかねない。一方、中国やロシアといった敵対国はこうした状況を戦略的な好機と捉え、利用しようとしている。
トランプ氏のイランとの戦争が、米国と世界の関係における永続的な転換点となるかどうかは、まだ見通せない。
大半のアナリストは厳しい見方をしている。政権復帰後にトランプ氏が繰り返してきた予測不能な行動、ルールに基づく国際秩序を覆すような振る舞いが、米国の同盟関係をさらに弱体化させるという見立てだ。戦時中の要求に概ね応じなかった北大西洋条約機構(NATO)に対してトランプ氏が今なお怒りをぶつけていることが、その懸念に拍車をかけている。
オバマ政権で顧問を務め、現在は戦略コンサルタント会社のシチュエーションルームを率いるブレット・ブルーエン氏は、「イランをめぐるトランプ氏の無謀な行動が、いくつかの劇的な変化をもたらしつつある。米国の信頼性そのものが問われている」と述べた。
トランプ氏と欧州の間の緊張が特に高まったのは、2月28日以降だ。トランプ氏は証拠を示さないままイランが核兵器開発に近づいていると主張し、イスラエルと共同でイランを攻撃した。イランによるホルムズ海峡封鎖という報復は前例のない世界的なエネルギーショックを引き起こし、欧州諸国は自ら望んだわけでもない戦争の最大の経済的敗者の一つとなった。
それ以前から、トランプ氏は広範な関税の発動、グリーンランド領有を巡るデンマークへの圧力、ウクライナへの軍事支援削減などで同盟国を動揺させてきた。
亀裂は今月さらに深まった。トランプ氏がドイツ駐留米軍3万6400人のうち5000人の撤収を発表したのだ。背景には、メルツ首相が「米国はイランに恥をかかされている」と公に発言してトランプ氏を激怒させたことがある。米国防総省もその後、ドイツへのトマホーク巡航ミサイルの配備計画を撤回した。
第二次世界大戦後に米国が設立に関わったNATOへの米国の参加を長年疑問視してきたトランプ氏は、今回さらに、戦争をめぐって対立するイタリアとスペインについても米軍の削減を検討していると表明した。
<同盟国との対立>
こうした動きの背景には、同盟国が戦争で米国を十分に支援していないというトランプ氏の不満がある。同氏はさらに、その結果としてNATOの第5条に基づく集団的自衛義務を米国が履行する必要はなくなるかもしれないとも示唆している。
ホワイトハウスのケリー報道官は「トランプ大統領はNATOや他の同盟国に対する失望を明確に示した」と述べ、イラン戦争に際して一部の国が欧州の軍事基地の使用を拒否したことを指摘した。同報道官はトランプ氏が「米国の国際的地位を回復し、海外との関係を強化した」と主張する一方、「いわゆる『同盟国』に米国が不公平に扱われ、利用されることは決して認めない」と語った。
トランプ氏は以前にも英国のスターマー首相を「ウィンストン・チャーチルではない」とあざ笑い、英国からの輸入品への高関税をちらつかせた。米国防総省もNATO同盟国への制裁として、スペインの加盟停止やフォークランド諸島に対する英国の領有権の承認見直しを検討する可能性を示唆している。
<自立へ動く欧州>
欧州各国政府はこうした圧力に対し、相互協力の強化、防衛負担の自主的な引き上げ、対米依存を減らすための共同兵器開発などを加速させることで応じている。同時に、大西洋を挟んだ同盟関係を維持することの価値をトランプ氏に説き続ける努力も続けている。
ある欧州の外交官は、トランプ氏の脅しは欧州が自国の安全保障により多く投資すべきだという明確なシグナルだと述べた。ただ各国首脳は当面、トランプ氏の圧力をかわしながら、何とかやり過ごすしかないと考えているという。
ただ、特にロシアの脅威に対する戦略的抑止力を米国に依存する「中堅国」に過ぎない欧州諸国が取り得る選択肢は限られている。アナリストらは、より高い自立に向けた移行には数年を要すると指摘する。
トランプ氏をなだめるため、欧州各国当局者は多くの国がイラン作戦で自国の基地や領空を米軍に提供していることを、水面下で強調している。
かつて欧州首脳の一部は、トランプ氏を持ち上げることで危機を収めようとしていた。だがアナリストらによると、今では同氏の交渉のやり方を見抜き、より明確に反論するようになっている。
ジョンズ・ホプキンス大学の米国・ドイツ研究所のジェフ・ラトキー所長は、メルツ氏について、以前の会談ではトランプ氏に好印象を与えていたように見えたが、今は「米国が自ら招いた状況を批判的に見ていることを隠そうとしていない」と述べた。
ただ欧州各国には、別の懸念もある。前出の欧州外交官は、法律上再選できないトランプ氏が、2029年1月の任期終了までに、世界の舞台で「自分の思う通りに行動する」ことへの歯止めを失うのではないか、という不安を語った。
NATOの将来について警鐘を鳴らす欧州首脳が相次ぐ中、ポーランドのシコルスキ外相はワルシャワで開かれた会議で「欧州がトランプ氏の長年の要求通りに防衛費の増額を実現する限り、パニックになる必要はない」と述べた。
<中東・アジアにも広がる不安>
それでも、米国の同盟関係への打撃は欧州をはるかに超えて広がっている。
4日、イランが米国の緊密な同盟国であるアラブ首長国連邦(UAE)にミサイルとドローンで攻撃を仕掛けた際、トランプ氏とその側近らは事実上、見て見ぬふりをした。すでに戦争で大きな打撃を受けている湾岸アラブ諸国の間に、さらなる不安が広がった。
トランプ氏は攻撃を「軽微」と素早く切り捨てたが、攻撃は重要なフジャイラの石油港を炎上させ、政府は学校閉鎖を余儀なくされていた。その後も攻撃が続いたにもかかわらず、トランプ氏は一カ月前の停戦がなお維持されていると言い張った。
トランプ氏は一部の湾岸パートナー国の反対を押し切って開戦し、各国はその後連帯の姿勢を示した。しかし湾岸諸国は今、トランプ氏がイランを脅威として残したままの状態で合意を結ぶのではないかと懸念している。
不安はアジアにも及んでいる。アジアの同盟国の多くは、紛争前にはホルムズ海峡を通じて自由に流通していた石油に大きく依存してきた。
日本や韓国はトランプ氏の高関税や伝統的な同盟関係への軽視ですでに動揺していた。米国国内のガソリン高騰を含む経済的圧力に対するトランプ氏の脆弱性が、例えば台湾侵攻のような中国との紛争への支援を求められた際に同氏の決断をためらわせるのではないかという疑念を抱く国が出てきてもおかしくない。
トランプ氏の第2期政権発足時に日本の外相だった岩屋毅氏はロイターの取材に、「一番心配なのは、日本が最も大切にしている日米同盟のパートナーである米国に対する信頼や尊敬が小さくなっていることだ。東アジアのみならずインド太平洋地域全体に大きな影を落とす」と語った。
西村康稔元経済産業相は、変化する世界の力学に対応するため、英国、カナダ、オーストラリア、欧州諸国など「志を同じくする中堅国」との関係強化が日本にとって一層重要になってきていると述べた。
<中ロが狙う「漁夫の利」>
開戦以来、イランの長年の同盟国であるロシアと中国は概ね距離を置いてきた。しかしアナリストらは、両国が事態を注意深く観察していると指摘する。
専門家らが警告するのは、イランに剥き出しの力を行使するというトランプ氏の選択が、周辺国への強圧的な動きを強める口実をロシアや中国に与えかねないという点だ。イランへの攻撃は、カラカスでのベネズエラ大統領拘束作戦からわずか数週間後の出来事だった。
主要なエネルギー生産国であるロシアは、イラン戦争が押し上げた石油・天然ガス価格の高騰から恩恵を受けている。米国と欧州の関心がウクライナ戦争から逸れていることも、ロシアには好都合だ。
イランの危機は中国のエネルギー供給を圧迫している。しかしアナリストらによれば、米国がインド太平洋から中東へ軍備をシフトせざるを得なかったこと、そして世界最強の軍隊が安価なドローンなどの非対称戦術に翻弄される場面があったことから、中国は重要な教訓を得た可能性があるという。中国はさらに、この状況を利用して、予測不能なトランプ氏よりも信頼できるグローバルパートナーであると自国を売り込もうとしている。
ただ、トランプ第1期政権で国家安全保障担当の大統領副補佐官を務めたビクトリア・コーツ氏は、米国による対イラン戦争を、中国政府が「米国は世界を不安定にする勢力だ」と各国に訴えるための口実として利用するのは難しいだろう、との見方を示した。現在ワシントンの保守系シンクタンク、ヘリテージ財団の副所長を務める同氏は、「中国は今回の一連の経緯を通じて、同盟国イランの強力なパートナーとして振る舞ってきたわけでは決してない」と指摘した。