Manuela Andreoni

[サンパウロ 9日 ロイター] - 中国の食肉関連業界団体、天津肉類協会の会長を務めるシン・イェンリン氏は、4月にブラジルのアマゾンを訪問した際SNS「微信(ウィーチャット)」に投稿し、「何万通りもの緑の色彩に包み込まれるような、忘れがたい感覚だった」と振り返った。協会を構成する企業は、中国のブラジル産牛肉輸入量の約40%を占める。

加盟企業はこのほど、森林破壊と無縁であることが認証されたブラジル産牛肉5万トンを年末までに購入することを確約した。これは、世界の商品取引で最重要プレーヤーの一角を占める中国が、より環境に配慮したサプライチェーンのために、より高い価格を支払う意思を示し始めたという初期の兆候かもしれない。5万トンは、ブラジルの牛肉輸出業者の今年の対中輸出見込み量の4.5%に相当する。

天津肉類協会のこうした方針は、ブラジルの畜産農家の間で長年信じられてきた「世界最大の牛肉・大豆輸入国である中国は、価格以外には関心を持たない」という通説に異議を唱えるものだ。

同時に中国政府も、国内産業を保護しつつ、貿易が環境に与える影響に対処したいというシグナルを発している。2019年に森林法を改正し、違法伐採材の取引を禁止。23年には、貿易に起因する違法森林破壊を終わらせるため、ブラジルと共同の取り決めに署名した。さらに中国国有食料大手の中糧集団(COFCO)は昨年から、自社サプライチェーンから森林破壊を排除する方針を打ち出した。

<牛肉と森林破壊の関係>

森林破壊と農業商品貿易の透明性向上に取り組む非営利団体トラーセの国際渉外責任者アンドレ・バスコンセロス氏によると、牛肉は大豆など他の一次産品ほど中国の食生活に不可欠ではないため、サプライチェーンで具体的な行動を起こすのに適している分野だ。「同時に、特にブラジル産牛肉は、中国が輸入する全農産物の中で森林破壊と最も強く結びついている商品であるということが、入手可能な情報によって裏付けられている」という。

世界最大で、最も生物多様性に富むアマゾン熱帯雨林では、毎年数十万エーカーの森林が消失。ブラジルの土地利用を監視する非営利団体マップビオマスによれば、その90%は伐採後すぐに牧草地として牛の放牧に使われている。

シン氏によると、中国の消費者の一部はこうした現実を理解しており、所得が増えるにつれて、価格以外のことにも目配りした選択をするようになっている。「ただ『安ければ良い』という時代ではない。森林破壊のない、環境に優しく、安全で、トレーサビリティー(追跡可能性)が確保された牛肉は、将来的により強い市場を獲得するようになる」と語る。

環境への配慮を基準にした食品選びは、世界的な物価上昇の影響を受ける中国の多くの消費者にとって、現実的ではない面があるのは事実だ。ただ、このプロジェクトが提供するトレーサビリティーは、食品安全に対する懸念を和らげる効果もある。

牛肉には、ブラジルの非営利団体イマフローラが設計した「ビーフ・オン・トラック」(追跡可能な牛肉)というラベルが付けられる予定だ。この認証は、サプライチェーンの追跡度合いや牧場主が自らの農地が合法的に開墾されたことを証明できるかどうかなどの条件に基づく4段階となっている。

天津の輸入業者は、供給元となる牧場が、合法・違法を問わず森林破壊や、強制労働との関係を一切持たないことを証明できる食肉業者に対し、通常より10%高い価格を支払う仕組みだ。この動きが広がれば、大きな影響につながる可能性がある。

ブラジルの政府統計および牛肉輸出業協会(ABIEC)によると、ブラジル産牛肉輸出に占める中国の割合は10%強となっている。

もっとも、この仕組みの効果は、ブラジルのトレーサビリティー制度の脆弱(ぜいじゃく)性によって損なわれる恐れもある。この制度は牛の移動を記録する書類に基づいているが、検察当局によれば、不正業者がサプライチェーン内の違法行為を隠す「キャトル・ロンダリング(出所不明の家畜の販売を可能にする書類偽装)」を使えば容易に偽装可能で、制度の改善には何年もかかりそうだ。

<チャンスか、障害か>

アマゾン熱帯雨林北部のカスタニャルにあるカリオカ農場の牧場主アルタイール・ブルラマキ氏は、シン氏が率いる天津肉類協会メンバーの訪問を受けた際、アマゾンの保護に非常に熱心な代表団の姿勢に強い感銘を受けた。「協会との会話から感じたのは、付加価値の高い商品を、購入する意思のある中国の消費者層に届けたいという熱意だった。そしてその消費者層はブラジルの全人口よりも多いかもしれない」と打ち明ける。

一方、ブラジルの牛肉関連業界全体としては、天津肉類協会の持続可能性プロジェクトへの反応は比較的冷ややかだ。ロイターがABIECの幹部と最近話をした関係者2人によれば、同団体はシン氏の取り組みに不満を示しているという。

関係者の1人の話では、ABIEC側が懸念しているのは、持続可能な牛肉を求める動きが、既にひっ迫している市場に新たなハードルを加える可能性があるという点だ。

今年、中国は国内の畜産業を保護するため、牛肉の輸入に「輸入割当(クォータ)」を導入した。ブラジルは、天津肉類協会が初めて持続可能性認証付き牛肉のコンテナを輸入する予定の6月末までに、その上限である110万トンに達すると見込まれている。

こうした状況を踏まえ、ABIECは声明で「当団体は認証に重点を置く取り組み自体は支持する。だが、新たなラベルや認証制度は、既に確立されている既存の制度と整合性が取れている必要がある。実施のための公的インフラが整っていない要件や、制度の重複を避けなければならず、そうでなければ生産の妨げとなる潜在的な障壁を生み出しかねない」と述べた。

この輸入枠制度では、上限到達後の牛肉輸入に55%関税が課され、この点が天津肉類協会の計画にとってブレーキとなりかねない。

<付加価値>

中国の消費者にとってトレーサビリティーのある商品の購入は一般的になりつつある。アマゾン訪問中にシン氏のチームは、卵にQRコードを付け、消費者が生産農場までさかのぼれる仕組みを、ブラジルの当局者や企業関係者に紹介した。

トレーサビリティーは、疾病発生時に規制当局が原因を特定しやすくするだけでなく、企業が環境犯罪に関与したサプライヤーを排除することも容易にする。「こうした卵には通常の2倍の値段を払う人もいる」とシン氏は話す。

「ビーフ・オン・トラック」認証は、年末までに、食肉加工業者、スーパーマーケット、輸入業者が採用できるようになる予定だ。制度の承認を受けた供給元の牛肉生産業は年間270万トン。これはブラジル全体の生産量の5分の1に過ぎないが、それでも中国の昨年の輸入量のほぼ2倍に当たる。

ただ、現時点でこの認証を採用すると発表したブラジルの食肉加工業者は今のところない。

非営利団体のイマフローラの政策マネジャー、マリーナ・ギヨ氏は「地政学的な緊張がある状況で、この認証がブラジル産品をどのように認識し、評価できるのか、業界はまだ理解しようとしている段階だ」と述べた。

他方でこの制度は、企業が既に掲げている持続可能性やトレーサビリティーの公約を果たすために行っている努力を評価することが狙いだとも指摘。「こうした努力に価値を与える可能性が生まれるかもしれない」と期待を示した。

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