Gus Trompiz Naveen Thukral
[パリ/シンガポール 27日 ロイター] - 穀物生産に不可欠な肥料は、イラン戦争の影響で供給が逼迫(ひっぱく)し、過去4年間で2度目となる価格高騰に見舞われている。しかし今回は前回と違い穀物価格が低迷しているため、農家は肥料価格の上昇を吸収する余力が乏しく、作付け計画そのものを見直す動きが広がっており、世界の食料生産自体が危機に直面している。
中東は世界有数の肥料生産拠点で、国際的な肥料取引の多くはホルムズ海峡を通過する。しかし中東紛争によりホルムズ海峡は事実上閉鎖され、世界最大級の生産設備を持つカタールからの尿素(窒素系肥料)供給が停止したほか、各種肥料の原料となる硫黄やアンモニアも物流が大幅に制限されている。
停戦のめどが立たない中、市場や業界の関係者が想起するのは2022年のロシアによるウクライナ侵攻時の肥料供給危機だ。ただし今回は当時を上回る深刻な事態になる可能性があると見られている。
米ノースダコタ州立大学・農業リスク政策センターのショーン・アリタ氏は「22年当時は最終的に多くの肥料が市場に流れ込んだ。だが今回は供給の落ち込みがはるかに急激だ」と話す。
<乏しい農家のコスト吸収力>
イランを巡る戦争が始まった2月下旬以降、肥料価格は軒並み急伸。とりわけ全世界の取引量の約3分の1を中東湾岸地域が占める尿素は最も値上がりが激しい。
価格が高騰しても調達を進める国はある。世界最大のコメ生産国で、第2位の小麦生産国でもあるインドは、単一の入札で過去最大量の尿素を確保。2カ月前のほぼ2倍の価格を支払った。しかしアナリストによると、この価格は多くの国や農家にとって手の届かない水準だ。
22年は穀物価格が世界的に高騰しており、ウクライナ戦争に伴う肥料購入コストの上昇をある程度穴埋めできた。しかし近年、穀物・油糧種子は記録的な豊作が続き、価格が低迷している。例えばシカゴ先物市場の小麦価格は4年前の約半分だ。大豆価格も当時は現在より約50%高かった。結果として今、多くの農家は収入が落ち込み、膨らむ肥料費を吸収するのが困難になっている。
多くの農作物では、尿素などの窒素系肥料を毎シーズン使う必要があり、収穫量だけでなく小麦のタンパク含有量など品質にも直結する。一方、リン酸やカリなどの肥料は、短期的には使用量を減らしても即座に減収にはつながらないとされる。しかし肥料の使用量削減も限界に近づいている。中国によるリン酸肥料の輸出規制に、イラン戦争による硫黄・アンモニアの供給混乱が重なれば、リン酸は供給そのものが長期的に逼迫しかねない。
米肥料大手モザイクのアンディ・ユング氏は、最終的に一部の農業生産者は収穫量が落ち込む危険を犯して、肥料の使用量を減らすかもしれないと話す。
商品データ会社アーガスのサラ・マーロウ氏によると、尿素はイラン戦争開始以降、中東のみならず、インド、バングラデシュ、ロシアでも生産が停止し、生産量が少なくとも200万トン分消失した。これは尿素の年間海上取引量の約3%に相当する。さらに、既に船積みされた100万トン弱がペルシャ湾岸地域で足止めされている。
商品市場調査会社ICISのマーク・ミラム氏によると、仮にイラン戦争が近く終結し、ホルムズ海峡が再開されたとしても、滞留している船舶の積載分を市場に流通させるだけで数週間を要する。さらに中東湾岸地域の生産設備が損傷を受けたほか、代替調達先との競争が激化していることから、肥料は供給制約が今後数カ月にわたって続く可能性が高いという。
<食料生産に影響か>
現在、多くの農家はなお肥料在庫を保有しており、前年の記録的豊作で世界の穀物在庫も比較的潤沢だ。そのため短期的な供給ショックは限定的にとどまるだろう。しかし国際穀物理事会(IGC)など農業関連機関は、早くも次のシーズンの収穫見通しを引き下げ始めている。
22年には肥料高騰で穀物輸入依存度の高い貧困国で飢餓が深刻化。アナリストは、東アフリカなどが再び影響を受ける恐れが高いと警告している。
影響の先行指標となり得るのがオーストラリアだ。穀倉地帯の西オーストラリア州では、肥料投入量が多く利幅の薄い小麦は転作が進み、作付面積が14%減少する見込み。小麦生産を続ける農家も肥料の使用量を減らしそうだ。BMIのシニア穀物アナリスト、マシュー・ビギン氏は「オーストラリアで肥料の使用量と収穫量の減少が確認されれば、世界全体にとって不吉な前兆になる」と述べた。
世界最大の大豆輸出国ブラジルでも、肥料使用量の削減や、より安価で効果の薄い硫酸アンモニウムへの切り替えが予想されている。
東南アジアでは、供給がもともと逼迫しているパーム油で一段の収穫量低下が懸念されている。クアラルンプールの農業専門家アミット・グハ氏は、若木における栄養不足が長期的な生産力低下につながると危惧している。
欧州では、フランスなどで肥料投入コストの高いトウモロコシからの転換が進み、夏に収穫される小麦は追肥削減によるタンパク含有量の低下も指摘されている。最大のリスクは今秋の作付けで、資金不足に陥った欧州の農家が穀物全体の作付面積を大幅に減らす可能性がある。
商品データ会社エクスパナのブノワ・フェヨー氏は「だからこそ、27年産の収穫について懸念が高まり始めている」と述べた。