抵抗経済
英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の中東プログラムを統括するサナム・バキル氏は、イラン指導部の思惑に言及して「彼らはエコノミストや西側の政策担当者が想定しているよりも長い持久戦を想定している」と述べた。
同氏は、イランを支配する聖職者と革命防衛隊は、イスラム共和国にとっての対外的な脅威の存在を国内締め付けの理由として利用し、米国から持続可能な取引を引き出すまで踏ん張り続けられると指摘する。
「彼らが(国内)弾圧手段を実際に行使することはかなり知られており、国民が蓄えを切り崩して生活している状況にも依存している」と解説し、イラン政府が国内資源活用と陸路での越境貿易に頼る「抵抗経済」という手法に立ち戻っていると付け加えた。
イランが戦争で受けた経済的打撃の規模や、果たして経済危機が目前なのかどうかは、信頼できる公的データが不足しているほか、部分的なインターネット通信遮断の影響から、正確に見積もるのは難しい。
ただロイターは今月、状況は極めて深刻で、各種制裁が解除されない限りイラン当局が新たな抗議デモの発生を恐れ、国家が破滅に直面しかねない事態だと伝えた。
バキル氏によると、今年のイランの国内総生産(GDP)は2桁台の減少が見込まれる。昨年に70%下落し、1月の大規模デモの一因となったインフレを悪化させた通貨リアルは、この数日でさらに15%下落した。ただ、3月を通じて安定していたため、戦前の水準から大きくは離れていない。
差し迫った財政難の兆候も乏しく、当局は銀行預金の引き出し制限や燃料・主食の配給制、公務員への給与支払い遅延といった措置は実施していない。スーパーマーケットの棚には商品が十分並び、オフィスや銀行は通常通り営業している。
4月13-25日の海運データに基づくと、この期間中タンカーに積み込まれた日量100万バレル超の原油のうち、インド洋に輸送されたのは約30万バレルにとどまり、イラン国内の備蓄容量には限りがある。ただ専門家の見立てでは、原油の減産に追い込まれるまであと2カ月程度は持ちこたえられる。
イランは、今回の戦争中、一時的に制裁が猶予された時期にエネルギー販売を通じて追加的な収入も蓄えた。
またイラン中央銀行高官の1人はロイターに同国は相当な金準備があると語っており、必要ならそうした資産を投入することができる。
ケプラーで農業商品分析を統括するイシャン・バヌ氏は「イランは地域最大の食糧輸入国だが、同時に地域で最も食料不安の少ない国という点が重要だ」と述べた。
バヌ氏によると、今年は平年よりも多くの収穫が期待できるので、必要な小麦輸入量は減少する見込みで、米国の海上封鎖が穀物輸送に拡大された場合の脆弱性が軽減され、外貨支出の一部も先送りできるという。
さらにバヌ氏は、海上封鎖が今のところペルシャ湾の港に限定され、アラビア海に面したイランのチャバハール港に及んでおらず、主な対象が石油タンカーであることが、監視されている船舶の動きから読み取れるとしている。
ロイターの取材に対してトルコ、イラク、パキスタンといったイランと国境を接する国の当局者はいずれも、現時点でイランとの越境貿易が落ち込んでいる兆候はないと明かした。
ロシアも今年になってカスピ海経由の貿易を拡大しており、ロシア農業省のデータでは、1月から3月にかけてトウモロコシ50万トン、大麦18万トン、小麦4000トンを、封鎖されたペルシャ湾の港を迂回する形で輸送した。