映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は異例づくめの大ヒットを記録中だ。3月20日に世界各国で同時公開されると、今年公開されたハリウッド映画で最高の興行収入を稼ぎ出し、アマゾンMGMスタジオの最大のヒット作となった。

『LEGO®ムービー』の監督コンビ、フィル・ロードとクリストファー・ミラーが手がけたこの作品、ロングランは確実と見ていい。批評家に高く評価され、口コミも上々で、観客満足度調査のシネマスコアで最高に近いAを獲得。非シリーズものの映画としては異例の快進撃だ。

観客を魅了したのは、ライアン・ゴズリング演じる元教師の宇宙飛行士と、彼の相棒となるカニっぽいエイリアンだ。とはいえ、最も注目すべきは、この映画のヒーローが群れを支配する「アルファオス」ではなく、「ベータオス」──より穏やかで控えめなBランクの男であるという点だろう。マノスフィア(男性優位主義者のコミュニティー)が影響力を広げるこの時代に、なぜか異例のヒーロー像が共感を呼んでいる。

ゴズリングは誰しも認めるマッチョなイケメンだが、この映画の主役を演じるに当たり、テストステロン値を思いっきり下げている。

この映画のゴズリングは、2011年公開の『ドライヴ』で有名なエレベーターでの暴力シーンを演じた彼ではない。『ナイスガイズ!』(16年)で手を布でくるんでガラスを割ろうとして腕を怪我するドジな探偵や、『フォールガイ』(24年)でテイラー・スウィフトが歌う失恋ソングを聴いて号泣するスタントマンを演じたゴズリングだ。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の主人公、ライランド・グレースは「嫌々ながらヒーローになった」軟弱男。映画の予告編とロックバンドのザ・キラーズの楽曲をリミックスした動画がTikTokでバズっているが、その楽曲の歌詞にあるように、グレースは「熱い思いはあるけれど、戦士の名にはふさわしくない」。

他のアクション大作のヒーローも、ストーリーの緊張感を高めるために、最初はためらいがちだったり、多少不器用だったりすることはある。ハリソン・フォードはまさにそんなヒーローを演じることでキャリアを築いてきた。

とはいえ、出だしこそ気弱だったヒーローも経験を積むうちに無敵のヒーローに成長する──それがお決まりの展開だが、グレースは最後の最後まで腕力も戦闘スキルもからきし無力のままだ。

頼りないけど憎めない