――彼らの狙いはどこにあるのか。

大きくは2点ある。第一に、エ​ネルギーの供給不安を利用した「日米分断」の誘発だ。米国の外交・安全保障戦略に追随してよいのかという疑問を日本国民の間に生じさせ、同盟関係に揺さぶりをかける意図がある。

第二に、燃料不足への懸念を通じて日本政府の危機管理能力への不信をあおり、「政権批判」へとつなげることだ。ただ、高市早苗首相は他国に先駆けて約45日分の石油備蓄の放出を決めるなど対応が迅速だった。その結果、買い占めなどのパニック的な動きは抑えられ、社会不安が深刻化せず、情報工作の効果は限定的にとどまった。

デジタル空‌間における情報工作は、現実社会の不安と結びついたときに初めて大きな影響力を持つ。仮に政府の対応が遅れていれば、想定以上の成果を挙げていた可能性がある。

――デジタル情報工作は世界的に増加傾向にあるのか。

情報戦自体は以前から存在するが、SNSと​インターネットの普及で作戦の効率が向上した。さらに最近ではAIの進化によ⁠って、手軽に外国語に翻訳できるようになり、画像や動画も大量生成できるようになった。AIを駆使したターゲティング広告を用いることで、特定の言論に共鳴しやすい層に標的を絞ることも容易くなっており、デジタル情報工作の件数は年々増えている。

ただでさえ日本は所得格差の拡大や、在留外国人・インバウンド(​訪日外国人)の増加を背景に、社会に潜在的な不安と怒りが高まっている。ここに外国勢力が工作を仕掛け、過激な意見を持つ人々が「クラスター化」しつつある。極めて危うい状況だ。もはや平時ではなく、戦時下だと認識する必要があるだろう。

もっともデジタル後進国の日本は、こうした工作を分析し対抗できる専門家が圧倒的に不足している。国を挙げて継続的な人材育成に今すぐ着手しなければ、手遅れになる恐れがある。

(聞き手・小川悠介 編集:橋本浩)

[ロイター]
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