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現実味を増す2つのリスク
米中2大超大国の対立という構図の下で、米政権が戦争を決断する背後には必ず、中国に対して立場を強化できるとの判断があるはずだ。だが、ドナルド・トランプ米大統領が2月28日に開始した対イラン攻撃にそんな効果があるとは考えにくい。
実のところ、アメリカを戦争に誘い出したのは、拡大中東地域における中国の軍事的プレゼンスの不在にほかならない。東西冷戦時代なら、アメリカがイランに同様の攻撃を行うことは不可能だっただろう。中東でのアメリカの権益が、ソ連の軍事行動の標的になる懸念があったからだ。一方、中国の軍事力は西太平洋地域の外では限定的なため、米政府はそうした懸念を抱いていない。
理論的に、イラン戦争はアメリカの立場を強化してもおかしくない。親中派の現体制を倒せば、中国の重要なパートナーであるイランは衰退し、中国への原油供給が混乱する。圧倒的軍事力を見せつければ、中国の台湾侵攻も防げるだろう。だが現実には、どれも実体のない主張だ。
第1に、アメリカがライバル超大国を弱体化させるため、時に第三国の体制転換を利用することは冷戦の歴史が示している。確かにアメリカとイスラエルによる攻撃で、これまでにイランの最高指導者や政権幹部が殺害された。それでも、イランの神権政治体制は揺らいでいない。アメリカがイラン政権崩壊を目指しているとすれば、作戦が目的達成に十分ではない可能性を示唆している。
第2に、米軍の爆撃でイランの軍事力は弱まり、イランが中東政治に介入する能力は低下している。だが、中国はイランと共に「悪の枢軸」を率いているという懸念は誇張だ。イランによってアメリカが中東で手いっぱいになるのは、ロシアがアメリカの資源を欧州に向けさせているのと同じく、中国にとって都合がいい。
第3に、中国の石油消費の70%以上が輸入由来で、輸入原油のほぼ半分が中東産であることを考えれば、イラン戦争による原油供給の混乱の被害を受けて当然だ。ところが、中国がパニックに陥る理由はない。進行中の国際的石油危機は、まさに中国が備えてきたシナリオだ。国内石油生産を増産したほか、原油の供給過剰や価格下落が起きていた昨年、中国は原油在庫を大幅に増加した。
さらにトランプが招いた石油危機は、国際原油価格の影響が大きい米経済に打撃を与え、同盟国の日韓やNATO加盟国を巻き込んでいる。
第4に、中国指導部と人民解放軍は当然ながら、アメリカの軍事力展開に熱い視線を注いでいる。米軍は今回、前代未聞の規模でAI(人工知能)を利用しているという。1991年の湾岸戦争と同様、イラン戦争は中国に軍事の再考を促すだろう。
だが91年当時、中国に衝撃を与えた米軍との技術格差はもはや存在しない。それどころか、今や中国の軍事力への自信は増す一方。アジアが対米戦の戦場になれば、自国に「地の利」があることも承知している。