イノベーションを強力に推し進めるよりも、なじんだ場所に戻るほうが賢明だと、安全策を取ったのである。それにより短期的には赤字の膨張を止められても、未来の自動車市場で膨大な収益を上げるチャンスを失うことになるが。

このパターンはホンダに限らない。既に10年余り日本の自動車大手はBEV市場をニッチと見なし、ハイブリッド車、水素、合成燃料に懸けてきた。日本政府はEVとハイブリッド車、さらには水素燃料車まで加えた「電動車」の開発・普及を推進する方針を掲げており、自動車大手の戦略はそれに沿ったものだ。

中国は「ローマ帝国的手法」で成功しつつある

2011年の東日本大震災による津波で福島第一原子力発電所の事故が起きるかなり前から、日本の政財界は未来の燃料として水素に注目していた。補助金と政治的資源は、既存のエンジンの技術的ノウハウとガソリンスタンド網をそのまま活用できる水素燃料車と水素ステーションの開発・整備に投じられた。

その間に中国は猛烈な勢いで技術開発を進めた。その動きを理解するには巨大帝国とインフラ建設の歴史が参考になる。古代ローマは標準化と中央集権的な管理により総延長約30万キロの道路を建設した。

クリーン技術開発で世界市場の制覇を目指す今の中国もそれと似た手法を取っている。生産体制とサプライチェーンを構築し、標準規格を定め、国策としてバッテリー、EV、太陽光パネル、関連ハードウエアの桁外れの量産体制をつくり上げ、品質面での競争力をどんどん上げているのだ。

戦後日本を支えた「成功の構造」は硬直化している