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対策は「もぐらたたき」

時代遅れの制裁の現実

事実だとすれば、大胆な行動だ。英紙フィナンシャル・タイムズは3月初め、中央アジアのキルギスがEU(欧州連合)を提訴する用意があると報じた(直後、キルギス政府高官は報道を否定)。

EUはその数日前、デュアルユース(軍民両用)製品の対キルギス輸出を禁じる可能性をちらつかせていた。ロシアへの再輸出防止が目的だ。中央アジア最大の法治国家で親欧米国との評判を傷つけるのかと、キルギス側は憤った。

軍事転用の可能性がある機器を、キルギスがひそかにロシアに送り出しているのではないかというEUの懸念には根拠がある。だがそうした懸念は、さらに大きな問題を目立たなくしているようだ。

ロシア政府は1年ほど前から、暗号資産(仮想通貨)ベースの制裁回避ルートの構築を進めている。その原動力がロシアのフィンテック企業A7と、通貨ルーブルに連動する暗号資産A7A5だ。

欧米の経済制裁で国際金融から締め出されたら、銀行の国際決済システムSwiftやドル決済システムは利用できない。言い換えれば、欧米の影響を受けない金融ルートがあれば、制裁は回避できる。

ロシア政府が2024年後半、モスクワを拠点とするA7の設立を支援したのもそのためだ。表面上は特に問題ない同社だが、一皮むけばロシア政府の「手あか」まみれ。創設者のイラン・ショルはモルドバの親ロ派実業家で、亡命中(24年にロシア市民権を取得)。国防関連の国有金融機関プロムスビアズバンクが株式の49%を所有している。

昨年9月、バーチャルで行われたA7のウラジオストク支店オープン記念式典には、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が出席した。

同社がアクセスを提供するA7A5はキルギス企業のオールドベクトルが発行し、キルギスの金融規制の下にある。資金源の一部は、プロムスビアズバンクの預金だ。制裁回避を目的に設計された暗号資産であることは、3つの特徴からはっきり分かる。

第1に、プロムスビアズバンクの支援のおかげでA7A5は事実上、無制限の流動性を確保している。

第2に、ロシア企業はルーブルをA7A5に交換可能で、主要な暗号資産取引所が22年から実施しているルーブル決済やロシア関連口座に対する制限を回避できる。

第3に、保有するA7A5はプラットフォームで、テザーなどのドル連動型ステーブルコイン(SC)と即時にスワップできる。都合のいいことに、同サービス利用の際に本人確認手続きは不要だ。