人種差別への挑戦と限界

ミュージカルの礎を築いた『ショー・ボート(Show Boat)』(1927年初演、①)には、人種差別による悲劇が巧みに組み込まれている。
19世紀後半から20世紀初頭のアメリカ南部、ミシシッピ川流域を巡演する劇場船に暮らす芸人たちの人生を描く同作は、花形歌手ジュリーが白人と黒人のミックスだと暴露され、白人の夫スティーブと共に船を去る姿を印象的に描き出す。
64年まで続いた人種隔離政策下のアメリカ南部では、白人と黒人(黒人の血が一滴でも混ざれば黒人と見なされた)の結婚は違法だ。
スティーブはジュリーの指を切り、血を吸った上で、疑いの目を向ける保安官にこう言い放つ。「みんな、俺に黒人の血が入ってるって誓えるぜ。俺は潔白(White)だ」
出自が知られる前にジュリーが歌う楽曲「あの人を愛さずにはいられない(Can't Help Lovin' Dat Man)」には、ブルース(黒人にルーツを持つ音楽)の音階を使用するなど、ミュージカルならではの伏線も織り込まれている。
"Can't Help Lovin' That Man" from PRINCE OF BROADWAY w/Bryonha Marie Parham & Kaley Ann Voorhees
黒人への偏見に基づく表象など批判すべき点はあるものの、『ショー・ボート』が人種差別の酷薄さを描き、観客の感情移入を促した意義は大きく、当時としては画期的だったと言えるだろう。
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