現代において、データはかつての石油のようなものだとリーは指摘してきた。中国は人口が多く、モバイルとデジタルのシステムが広く普及しているため、AIを動かすデータ量で優位に立つ。また中国には「アルゴリズムを高速に動かし、ビジネスロジックにつなげ、実際に仕事を進める優秀なAIエンジニア、つまり実装者がより多くいる」と言う。

だが業界でグローバルな経験を積んだリーでさえ、中国のスタートアップがこれほど短期間でAI業界を揺るがすとは予想していなかった。しかもそれは、百度(バイドゥ)やアリババ、テンセントという巨大テックの系統ではなく、杭州のクオンツ系ヘッジファンドから生まれた企業だった。

ディープシークのAIはより速く、より安く、それでいて最先端だった。オープンソースのプラットフォームにより、研究者は同社の低コスト手法を土台に研究を進めることができる。驚くべきことに、ディープシークはわずか560万ドルの計算資源でモデルを訓練できると主張する。アメリカの競合企業が通常必要とする約1億ドルをはるかに下回る額だ。

「ディープシークはアメリカのAI業界に、採算の計算式そのものを見直させた。しかも、そのモデルの再現方法まで公開した」と語るのは、かつてマイクロソフト中国研究所(北京)の幹部を務め、現在はニューヨークでエージェント型AIのスタートアップを運営するフランク・ユィだ。「今後は中国だけでなく、アメリカやヨーロッパ、中東にも『次のディープシーク』が次々と現れるだろう」

互いに負けられない戦い