自由なアリサとは対照的に、「体育強国」という国家的・民族的使命を背負い、中国代表として金メダルを獲得したアイリーンは試合後に「ただ横になりたい」「本当に簡単ではなかった」と心境を明かした。2022年の北京冬季五輪では、金メダル量産を目的に、中国政府が海外で生まれ育った華人系選手32人を中国代表として起用した。4年後、その「生き残り」はアイリーンただ1人。重圧は尋常ではなかったはずだ。

アイリーンが今後も中国政府と協力し続ける道を選ぶのなら、アリサのように「自分のために」生きる自由を手放し、常に「国家のために」尽くす覚悟を持たなければならない。もちろん、中国で生まれ育った中国人と比べれば、彼女にはなお一つの自由がある。生まれ育ったアメリカへ帰ることを選択する、という自由である。

ポイント

アリサ・リュウ

中国名は劉美賢(リウ・メイシエン)。05年生まれ。父は四川省出身で天安門事件後、アメリカに亡命。アリサの母親は匿名の卵子提供者で、代理母から生まれた。

アイリーン・グー

中国名は谷愛凌(クー・アイリン)。専門はハーフパイプ、スロープスタイル、ビッグエア。03年にアメリカ人の父と中国人の母の間に誕生。19年中国代表入り。

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