揺らめく炎のようにさまざまな表情を見せるジャネットを、マリガンは見事に演じている。だが、映画の比重が彼女に傾き過ぎて、父と息子だけが登場するシーンは精彩を欠く。なすすべもなく黙って耐えるジョーの気持ちは、オクセンボールドの演技から痛いほど伝わってくるが、それでもノーの声すら上げない彼には歯がゆさを覚える。

映画の結末は納得できるし、満足のゆくものだ。ただ、ジャネットの心の傷があまりに深いだけに、それがきれいに縫い合わされてしまうオチには少し物足りなさも感じる。救いは町を見下ろす山々の安らぎに満ちた壮麗さが、ジャネットの激しさと対置されることだ。

かっちりした絵画的なダノの構図はやがて、ジャネットの変貌とジョーの動揺を描いた場面に取って代わられる。母に引かれつつも反発するジョーは、決して母から目をそらすことができない。観客も同じだ。

WILDLIFE『ワイルドライフ』

監督/ポール・ダノ 主演/エド・オクセンボールド キャリー・マリガン ジェイク・ギレンホール。日本公開は7月5日。

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