実際、中国ガイドの売りつけテクニックは圧巻だ。私も香港ではないが、中国のツアー旅行に参加したことがあり、その圧倒的技術を目の当たりにした。時に優しく、時に罵倒し、時に脅迫してとありとあらゆる技を駆使している。
中でも話題となったのが、2015年10月に香港・九龍地区の宝飾品店で起きた事件だ。買い物を拒んで店に入らなかった客にガイドが激怒。チンピラを呼んで殴る蹴るの暴行を加え、死亡するという惨事が起きている。香港当局及び旅行業界は改善を約束しているが、何も変わらぬまま今にいたっている。
ここまで悪名が知れわたれば参加しなければいいのにと思うのだが、そこは13億人の中国。リピーターがいなくとも新たな客を開拓し続ければ食べていけてしまう。また有料ツアーにしても、ホテルのグレードが上がったり土産物屋にいる時間が少し短くなったりする程度で、本質的にはあまり変わらないというあきらめもあるという。それだけに、できれば個人旅行で外国に行きたいと考える人が多いが、価格や手間を考えて仕方なくツアーに申し込む人もいるという。
ブラック旅行ビジネスは水平展開され、日本にも上陸
さて、こうしたえげつない中国の旅行ツアーはなにも香港・マカオだけではない。韓国や台湾でも、香港に近いレベルで「ブラック旅行インフラ」が整備されている。先日は「オーストラリアの土産物屋で働いていたんだけど質問ある?」というネット掲示板が話題となった。ぼったくり土産物屋でバイトした経験から、普通のお店の数倍という高額の料金で売りさばいていたことを告白する内容だ。
また、日本にもそうした動きは広がっている。香港・マカオの成功事例を各地にコピーする、ブラックビジネスの水平展開だ。
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例えば上海から韓国・済州島、日本・福岡を回る4泊5日の客船旅行は2000元(約3万5000円)を切る低価格で提供されている。宿泊費、食事代込みだけにびっくりするほどリーズナブルだ。だが低価格旅行に「騙された」という中国人消費者の声はすでに相当数に増えており、中国メディアもぼったくり日本旅行について取り上げる機会が増えている。
【参考記事】日本企業が「爆売り」すれば、爆買いブームは終わらない
低価格ツアーの客が連れ込まれる免税店は、「日本人立ち入り禁止」すなわち外国人ツアー客しか入れない。他の店と値段を見比べたりできない空間で、健康食品やら化粧品やら家電やらを大量に買わされることになる。
いい買い物をしたと喜んでいる人もいる一方で、後になってから、購入した製品がまったく無名のブランドで本当に日本企業が製造したかどうかすらも分からないと憤っている人も多い。ネット掲示板やSNSを検索すると、怒りの書き込みがずらりと並ぶ。
日本ならば騙されない、日本にはニセモノは売っていないはず――中国人が持つ日本ブランドをうまく利用してあこぎな商売をしているわけだ。こうしたツアーは客も外国人ならば、ぼったくり免税店の経営者やガイドも外国人ということで、日本人の目に触れる機会は少なく話題になっていない。日本当局の動きも鈍いようだ。
しかし、あこぎな業者が利用し食いつぶしているのは日本のブランド価値なのだ。日本人が気づかないうちに、日本に対する信用がぼろぼろになっているということも十分考えられるのではないか。日本におけるブラック旅行ツアーのシステムが完成し、旅行客が殴り殺される事件が起きる前に、取り締まりが必要ではないだろうか。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。