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谷崎潤一郎の書:「茅淳の海の鯛を思はす伊豆の海にとれたる鰹めしませ吾妹」『墨59号』(芸術新聞社)/『悪筆論──一枚の書は何を語るか-書体と文体』(芸術新聞社) 362頁より

谷崎の女と男の性をテーマとする物語は、ひらがな語=女手と漢字語=男手の混合、交雑する日本語の構造自体が強(し)いた物語が、女手寄りに具現した姿と言っていい。

 

その意味において谷崎は傑出した「女手の日本文学者」であった。だが、その日本語は西欧語に開かれることなく、自閉状態にとどまった。

 

谷崎文学は、男手(男)と女手(女)の世界つまりは漢字かな交じり文に迷い込んだ挙句につくり上げられた世界である。

 

それゆえ、必然的に『源氏物語』の現代語訳に取り組んだ。だが、男手の漏れ来る谷崎の書の姿を見るかぎり、平安上代様の女手を思慕する味の筆画が連続する書を残した与謝野晶子訳のほうが、『源氏物語』の世界の真に近いだろうと想像されるのである。

※谷崎潤一郎の引用した小説『春琴抄』は『谷崎潤一郎全集第13巻』、『文章読本』は『谷崎潤一郎全集第21巻』、『卍』は『谷崎潤一郎全集第11巻』、「詩と文字と」は『谷崎潤一郎全集第22巻』(すべて中央公論社)による

石川九楊(Kyuyo Ishikawa)

1945年福井県生まれ。京都大学法学部卒業。書家。京都精華大学名誉教授。 著書に『書の終焉──近現代史論』(同朋舎出版、サントリー学芸賞受賞)、『近代書史』(名古屋大学出版会、大佛次郎賞受賞)、『日本書史』(名古屋大学出版会、毎日出版文化賞受賞)、『中國書史』(京都大学学術出版会)。『筆蝕の構造』(筑摩書房)、『石川九楊の書道入門』(芸術新聞社)、『日本語とはどういう言語か』(中央公論新社)、『河東碧梧桐──表現の永続革命』(文藝春秋)ほか多数。『石川九楊著作集』(全一二巻、ミネルヴァ書房)を刊行。

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 『悪筆論──一枚の書は何を語るか-書体と文体

  石川九楊[著]

  芸術新聞社[刊]

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