<日本の化学メーカーのカネカが、世界の海を救う。研究者の情熱と微生物の力が織りなす、持続可能な素材「Green Planet」の軌跡に迫る>

日本企業のたとえ小さな取り組みであっても、メディアが広く伝えていけば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく──。そのような発信の場をつくることをミッションに、ニューズウィーク日本版が立ち上げた「SDGsアワード」は今年、3年目を迎えました。

私たちは今年も、日本企業によるSDGsの取り組みを積極的に情報発信していきます。

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近年、世界中の海洋に浮かぶプラスチックごみが深刻な環境問題として浮上しており、特にマイクロプラスチックによる生態系への影響が懸念されている。海に流出したプラスチックは長期間分解されず、魚介類や鳥類の体内に取り込まれることで、食物連鎖を通じて人間にも悪影響を及ぼす可能性がある。

この問題は一企業だけで解決できるものではないが、産業界にも持続可能な素材開発への責任が求められている。そんな中、環境負荷を大幅に低減するソリューションとして注目されている素材がある。株式会社カネカが30年以上にわたり研究開発を進めてきたのが「カネカ生分解性バイオポリマー『Green Planet』」だ。

「Green Planet」で実現する、化学メーカーのサステナブル革命

カネカは、化成品(化学合成によって作られる製品)から食品、医薬品、エレクトロニクスに至るまで多角的に事業を展開する総合化学メーカー。日本のほかに、欧米・アジアにも製造・販売拠点を持ち、グローバルに事業を展開している。「カネカは世界を健康にする。Kaneka thinks "Wellness First"」をビジョンに掲げ、環境・エネルギー・健康・食といった社会課題の解決に注力している。

Green Planetが生分解される様
Green Planetが生分解される様子

その社会課題解決に向けた取り組みの一つであるGreen Planetの開発は、1980年代後半にさかのぼる。まだ海洋マイクロプラスチック問題は認識されていない時期だったが、石油資源に依存しない、環境にやさしいソリューションを提供したいと考え、バイオマス由来のポリマー開発に着手した。研究者は、植物油を体内に取り込んでポリマー(高分子の化合物)を作り出す微生物を求め、全国各地を調査していた。

ところが目的の微生物が見つかったのは、自社の高砂工業所(兵庫県)。その土壌から奇跡的に発見されたのだ。まさに灯台下暗しだと、カネカ社内では今も笑い話のように語り継がれているという。

この微生物が作り出す「PHBH」というポリマーは、土中だけでなく海水中でも分解され、環境にやさしい特性を持つ。しかし、後にGreen Planetの主成分となるこのPHBHは、発見当初はわずかな量しか生産できなかった上、実用化への課題が山積みだった。30年にも及ぶ研究開発の末、カネカは独自の高分子技術と合成生物学を駆使し、効率的な微生物育種・代謝制御技術を確立した。

さらに、従来のプラスチックと同様に使えるよう、カトラリーなどの硬質用途、ストローなどの軟質用途の両方に対応する成型加工技術を開発。培養条件の最適化を通じたスケールアップ技術も開発し、工業化に成功した。

2012年には年間1000トン、2019年には5000トンのPHBHを生産できるプラントを稼働させた。2025年度には1万5000トンの生産能力を持つプラントが稼働予定だ。

循環型バイオものづくり技術
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