声を張り上げ権力争いを繰り広げる野心家たちの中で、次期教皇を異色の存在にしたのは、その穏やかな口調だった。彼はローレンスの問いにも、淡々と答える。

次期教皇が自ら選んだ教皇名には、自分の生きざまを過ちや裏切りや罪と見なすことを断固拒否する心情が表れている。選んだ名前とは、「イノケンティウス(無垢なる者、潔白なる者の意)」。

カトリック教会の上層部を暗に批判する結末に、伝統的なカトリック教徒の一部は反発するだろう。

だが進歩派からも異論が出そうだ。結局のところ、あの結末は考察や議論の対象というより、観客をあっと言わせるための仕掛けにすぎない。リベラルな寛容の精神を曖昧にたたえたが故に、作品自体が論議を呼ぶ可能性もある。

多くの観客にとっては、人間性の核に触れてくる問題を、『教皇選挙』は善意からとはいえ恩着せがましく扱った。その意味では黒人差別を描いた『グリーンブック(Green Book)』のように、大きな物議を醸すかもしれない。

新教皇がローレンスに秘密を明かしても、教会の伝統に強いられ、本当の自分を隠すしかなかった人々の運命が好転するわけではない。

それでも結末には控えめな希望がうかがえる。何世紀も揺らがなかった権力とセクシュアリティーの通念が、バチカンの内でも外でも崩れ始める未来を、映画はこの教皇の即位に託したのではないか。

©2025 The Slate Group

Conclave

教皇選挙

監督╱エドワード・ベルガー

主演╱レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ

日本公開は3月20日

【関連記事】
ニューズウィーク日本版 台湾有事の新シナリオ
2026年4月21号(4月14日発売)は「台湾有事の新シナリオ」特集。

米・イラン戦争で変わる地域紛争の「大前提」/石油危機を恐れるべき理由

※バックナンバーが読み放題となる 定期購読はこちら
※画像をクリックするとアマゾンに飛びます