ゼレンスキー大統領は、シュタインマイアー大統領の訪問を拒否しておらず、そもそもそのような要請を受けていない、と述べ、訪問拒絶に対して正面から言及することを避けた。一方、ドイツ側の報告によれば、ウクライナ側はシュタインマイアーを受けいれられない理由として「セキュリティ上の理由」を挙げたという。また独紙『ビルト』はウクライナの外交官による「キーウではシュタインマイアーは歓迎されない」というコメントを報じている。
こうしたことから推察されるのは、シュタインマイアー大統領のキーウ訪問拒否は、ゼレンスキー大統領の積極的意志というよりは、ウクライナの国内事情によるところが大きいのではないだろうか。ウクライナ政府の立場としてはドイツに対して不満があったとしても、それを理由に大統領の訪問を拒絶するのは現在の国際情勢の中では合理的とはいえない。しかしそれ以上に、ウクライナ国内ではシュタインマイアーの評判は余程悪く、ウクライナとして混乱を生じさせず受け入れることは出来なかったと考えられるのだ。
問われるドイツの対応
このようなウクライナ側の方針に対して、ドイツ国内では反発の声も起きている。ゼレンスキーの演説は概ね真摯に受け止めていたドイツ国民だが、シュタインマイアーは大統領になるほどの声望を集めていた政治家であったことは間違いなく、また開戦後は自身の親ロシア寄りの態度を公的に謝罪し、ウクライナへの支援を呼びかけていた。大統領のこうした姿勢を踏まえて、ウクライナ側の訪問拒否は礼を失していると考える政治家もドイツには出てきている。12日以降、「(ウクライナ側の対応は)苛立たしい」と述べたショルツ首相を初め、与野党の政治家が相次いで訪問拒否に遺憾の意を表明した。
ゼレンスキー大統領はショルツ首相のキーウ訪問を求めている。しかし大統領が拒否された都市に首相が行くのは、大統領の顔を潰してしまうというかもしれない。名誉職にすぎない大統領ではなく政治的実権のある首相を、というウクライナ側の理由も、大統領への侮蔑とも解釈できる。このような議論がドイツ国内で広がっていく中で、ショルツ首相はキーウ訪問を具体的に決定できないでいる。
しかしウクライナ戦争の収拾のためには、ドイツ政府が一貫してウクライナ政府と連帯していることが必要だろう。ドイツには、このような分断はロシアによるプロパガンダが効いているからだという主張も出始めている。ドイツの国内世論が感情的に反ウクライナへと沸騰することは抑えなければならない。ショルツ首相の難しい政治的舵取りが求められている。