しかし、そうした実行犯の「心理」は、差別感情やヘイトクライムの実行と直接的に繋がるわけではない。本質的には差別が問題であるのに、差別の問題が脇に追いやられ、議論はこうした犯人のような「かわいそうなマジョリティ」をいかにケアするかという話にすり替えられてしまう。

関東大震災で朝鮮人を虐殺したのは「普通の日本人」だった。過激な事件を起こした差別主義者だけを切り離し、日本のマジョリティの根底に存在する差別感情をなかったことにしてはならない。人間が社会に生きていくうえで何らかの問題を人生に抱えているのは当然であり、それは「普通の人間」だ。差別感情を持つ「普通の人間」こそがヘイトクライムの実行主体なのだ。

政府による声明が必要

したがって、さらなるヘイトクライムを止めるためには、犯人の心理分析ではなく、国や自治体がこの問題を他人事として扱わず、マジョリティの責任として、断固としてマイノリティの人権を守る姿勢を示すことが必要なのだ。ところが被害のあった自治体の各首長や、岸田首相をはじめとする政府関係者は、誰一人としてヘイトクライムについて声明を出していない。大手メディアの報道が少ないという問題もある。

武蔵野市の住民投票条例に対する反対意見にも現れたように、「外国人が多く住むと治安が悪くなる」「民族マイノリティが日本を乗っ取るのではないか」といった妄想的な排外主義思考も根強く存在しており、これが高まるとより恐ろしいヘイトクライムに発展するかもしれない。日本は人種差別撤廃条約を批准している。その責務を果たすためにも、またネットでの二次加害を止めるためにも、まずは岸田首相がこの件に関して何らかのコメントを行うのは急務であろう。

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