日本とサウジアラビアの共同制作アニメが示す新たな可能性

しかし、上述のジャーニーにはそのような外国臭さが良い意味で少ない。どちからというと、できるだけ日本のアニメの良さを受け止めて、それを良い形で昇華させていきたいという意気込みを感じる作品であった。

その作品性に強い感銘を受けた筆者は、東京・虎ノ門にあるマンガプロダクションズ株式会社を訪ねて、CEOのイサム・ブカーリ氏に取材を申し込むことにした。

  

当初、筆者は中東の経営者と面と向かって話す経験は少ないため、一体どのような人物なのだろうか、と若干不安に思っていた。しかし、取材に応じてくれた、ブカーリ氏は柔和な雰囲気の好人物で、私からの突っ込んだ質問についても丁寧に答えてくれた。

実はブカーリ氏のメディア取材記事はネット上に幾つもある。しかし、どれも表面的なものばかりで、筆者が知りたいものとは異なるものばかりだ。

筆者が知りたいことはただ一つ、「なぜサウジアラビアの企業が日本のアニメ作りに限りなく近いテイストの作品を制作することを望んだのか」だ。その理由こそが日本が求めるクールジャパンによるソフトパワーの拡大の要になるポイントになると直感した。

ブカーリ氏の回答は実に明確なものだった。それは「アニメに対する単純な興味関心や営利性ではなく、日本人のより深い部分に着目しているからだ」という回答だった。

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イサム・ブカーリ マンガプロダクションズ株式会社代表取締役 *筆者撮影

ブカーリ氏は経営者として異色の経歴を持つ。サウジアラビアでは成績優秀な学生はアメリカ留学の道を選ぶという。しかし、ブカーリ氏はアメリカ留学ではなく、あえて早稲田大学理工学部に留学を選択し、その後に同大学で博士号(経営学)まで取得した。その思いは戦後日本の奇跡の復興、その精神性の秘密を学ぶことにあったという。博士号取得後、同氏は同国駐日大使館に勤務、3.11の震災時にも日本で在官していた。多くの国々が震災の影響を懸念し日本から留学生らを避難させる中、彼は「今こそ、日本の強さを知ることができる」と決断し、同国の留学生を日本に引き留め、逆に多くの学生を日本に呼び寄せたという。当時の状況を考えると、この決断は並大抵の苦労ではなかっただろう。

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同社会議スペースにはFFのファンアートも *筆者撮影

その後も、ブカーリ氏の日本の精神性を学ぶ姿勢は徹底していた。マンガプロダクションズ立ち上げ後、同社内ではサウジアラビア人のクリエイターを育成するプロジェクトも開始した。現在、自社でも短編作品の作成などを始めているが、それらを作るサウジアラビア人のクリエイターは必ず日本の大手スタジオで学んだ人間を採用している。ブカーリ氏が日本企業との協業の条件として、自国のクリエイターが日本で学ぶことを求めた結果だ。アニメの作り手を使い捨てにする人材育成ではなく、それらの人々を日本の精神を学んだ人材として重要視しているという。

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ヒジャブを身に付けた女性アニメクリエイター *同社写真提供
教育への影響:サウジアラビアにおけるアニメ教育の導入
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