ところで、アラカン軍の拠点である北西部は中国のビジネスにとって重要度が高い。中国にとってこの地はインド洋に抜けるルート上にあるからだ。

チン州の南隣ラカイン州チャウピューでは「一帯一路」構想に基づき、中国が7億ドルを出資した港湾整備が急ピッチで進められている(そのそばのシットウェではインドも同じようなプロジェクトを進めている)。

つまり、中国にとっての最善は軍事政権のもとで戦乱が収まることだが、国軍の後退でそれが難しければ、アラカン軍など3同胞同盟による北西部の治安回復は次善の策となる。

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とすると、アラカン軍などが事実上の独立政権を打ち立てた場合、それ以上の戦乱で経済活動が妨げられるのを恐れて、中国はそれを黙認せざるを得なくなる公算が高い。その場合、中国以外に有力スポンサーを期待できない以上、軍事政権は「裏切り」にも公式には苦情をいえないだろう。

この推測が正しいかは、今後アラカン軍が北西部を実効支配した場合、中国がこの地でビジネスを粛々と続けるかで判定できるだろう。

ミャンマーのバルカン化?

ただし、アラカン軍の台頭がミャンマー全体の安定を意味するとは限らない。

アラカン軍が陥落させたパレッワについて、オーストラリア戦略政策研究所のナサン・ルーサー研究員はミャンマー全土で国軍が失った42番目の街と指摘し、戦闘が続いている街はあと16と推計する。つまり、国軍は徐々に全土で後退しているとみられる。

ところが、アラカン軍に限らず、少数民族の武装組織は戦術的には民主派とも協力しているが、その優先事項は「ミャンマーの民主化」よりむしろ「ビルマ人による支配」を拒絶することにあるとみた方がよい。独立以来、ビルマ人中心の政府は少数民族の権利を制限してきたからだ。

そのため、アラカン軍のように国軍を後退させる状況が各地に広がれば、ミャンマーが分裂する可能性すらある。ミャンマー出身の政治アナリスト、カウ・フサウ・フライン氏はこれを「バルカン化」と表現する。

とすると、民主派の国民統一政府はアラカン軍による北西部制圧を歓迎する声明を発表しているが、内心は穏やかでないだろう。

2021年のクーデタで口を開いたミャンマーの全面的な内戦は、ミャンマーという国家そのものを崩壊させるかもしれないところまできているのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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