冷徹なリアリストとしての情報機関
ただし、ISの情報機能を元フセイン体制の治安情報機関が担っていると言っても、ISを支配しているということは意味しない。情報機関にとっては国が民主制か、独裁制か、カリフ制か、は関係ないことである。ISにはカリフ制を唱えて、厳格なイスラム法に基づいて統治しようと考える支配的組織または集団がいて、元イラク情報機関のメンバーは、その支配的意思を実現するために、民衆や部族を支配する地域対策などで役割を担っていると考えるべきだろう。彼らは冷徹な現実主義者であり、イスラムの実現さえ信じてもいないかもしれない。
ISはなぜ、残酷なイメージを誇張し、それをインターネットで発信するのか。あえて欧米を敵に回すような宣伝手法をとるのか。それもまた、ISの戦略であろう。90年代には米国による封じ込め策の下にありながら、度々米国を挑発し、緊張状態を作りながら、国内を引き締めた旧フセイン体制の常套手段が連想される。空爆だけで根絶されることはないという計算や、米欧が空爆に結束すればするほど、イスラム世界との亀裂が広がるとの計算もあるだろう。
米欧にとってISとの戦いは、米国の無謀なイラク戦争が生んだ「反米過激派」という怪物との戦いであり、それを支える情報機関というフセイン体制の亡霊との戦いでもある。しかし、怪物や亡霊が暗躍するのは、イラクやシリアのスンニ派の民衆の怒りや絶望をエネルギーとしているからである。米欧やロシアの空爆の激化が、IS支配地域にいる民衆の絶望を深めることになれば、さらなる泥沼へと進むだけとなろう。