先住民迫害の過去から目をそらすアメリカは変わるのか

2018年9月7日(金)17時10分
渡辺由佳里

<先住民のアイデンティティーの問題が現代のアメリカ社会の日常で語られることは少ない>

アメリカでは11月の第4木曜日に家族が集まって感謝祭(Thanks Giving)を祝う。そして小学生たちは、アメリカに入植した清教徒や先住民のインディアンの衣装を着てアメリカの感謝祭の歴史を学ぶ。

その歴史とはこういうものだ。イギリスでの宗教弾圧を逃れてマサチューセッツ州のプリマスに住み着いたピルグリム・ファーザーズが作物を栽培できずに飢えそうになっていたときに、その地の先住民であったワンパノアグ族(Wampanoag)が食物を分け与え、栽培の知識を与えた。そのために生き延びることができた入植者は、収穫が多かった翌年にワンパノアグを招いて宴会を行った。それが感謝祭の始まりだと言われている。

だが、初期の入植者とインディアンの関係は、小学生が学んだような心温まるストーリーではなかった。

免疫がないインディアンの多くが、入植者の持ち込んだ疫病で死んだが、それだけではない。白人の入植者らは、自分たちを救ってくれたワンパノアグ族の土地を奪い、女や子供を奴隷として売り飛ばした。そして、それに抗議した酋長を毒殺し、後続の酋長が抵抗の戦いを挑んたときにはワンパノアグ族を壊滅状態にした。勝利した白人入植者は酋長の頭を槍の上に刺して、見せしめとして飾った。このときに惨殺されたインディアンは他の部族も含めて約4000人と言われる。

その後も、白人たちはアメリカ全土でインディアンから土地を奪い、虐殺し、奴隷にし、作物が採れない場所に追いやったのだ。

感謝祭に七面鳥の丸焼きを食べながら家族団らんをするアメリカ人のほとんどが、この残酷な歴史を知らないか、無視している。先住民に対するアメリカの白人の態度は、おもに「過去のことにこだわっているから前に進めないのだ。さっさと忘れて、自分たちの暮らしを良くするために努力したらどうだ?」というものだ。

だが、現在のインディアンのコミュニティが貧困、アルコール依存症、家庭内暴力といった社会問題を抱えている根本的な原因は、この血みどろの歴史にあるのだ。それなのに、どうすれば忘れ去ることができるのか?

今作でデビューした作家トミー・オレンジ(Tommy Orange)の『There There』の根底には、その血みどろの歴史と行き場のない憤り、そして未来への迷いがある。

この小説には、カリフォルニア州オークランドに住むインディアンの血筋を引く者が多く登場する。

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