米政権のデモ弾圧を見た西欧諸国は、今度こそアメリカに対する幻想を捨てた

2020年6月5日(金)17時40分
キース・ジョンソン

<報道の自由や平和的に抗議する権利を尊重せよと長年、他国に説いてきたアメリカはどこに行ったのか。長年抱いてきた不信が、抗議デモを暴力で蹴散らし、ホワイトハウスを高い塀で囲ったこの一週間で確かな幻滅に変わった>

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は先日、ドナルド・トランプ米大統領が6月末の開催を目指していたG7(主要7カ国)首脳会議への出席を辞退。イギリスのボリス・ジョンソン首相は、ロシアをG7に復帰させるというトランプの提案を拒絶した。これらのケースはいずれも、欧州の同盟国や友好国がいかにアメリカに幻滅しているかを浮き彫りにしている。幻滅は今に始まったことではないが、最近のトランプ政権の新型コロナウイルス危機や全米で続く抗議デモに対する対応がダメ押しになった。

デモ対応でいえば、先週末にホワイトハウス周辺の平和的なデモ隊が「強制排除」されたことに、メルケルをはじめヨーロッパの複数の当局者から非難の声が上がった。アメリカが掲げてきた民主主義の価値観から離れ、権威主義に向かいつつあることに、同盟諸国はうんざりしている。カナダのジャスティン・トルドー首相の意気消沈ぶりは、ホワイトハウス前の平和的なデモ隊に催涙ガスが使われた事件について問われた記者会見でも明らかだった。長いこと言いよどんだ挙句、信じられないものを見た、という表情で彼は言った。「(あの事件には)恐怖と狼狽しかなかった」

アメリカに敵対的な国は逆に、この事態に大喜びだ。ドイツ国際安全保障問題研究所のサラ・ローマン(米国内・外交政策の専門家)は、「中国共産党やロシア政府などは、この状況を大いに楽しんでいる」と指摘する。

いつも人権問題でアメリカから批判されてきた中国は、アメリカ国内の人種問題や人権抑圧を嬉々として取り上げ、反撃している。イラン外務省の報道官は「国家による弾圧」に立ち上がったアメリカ国民に同情の意を表した。

もはや耳を傾ける者はいない

警察による暴力、デモ隊への催涙ガス使用、外国人ジャーナリストを含む市民への暴力、首都ワシントンの市街地やホワイトハウス周辺で厳戒態勢を敷く兵士や機動隊、ホワイトハウスの周囲に建てられた高い塀――この1週間、世界各地で報じられたこれらの光景は、アメリカの道徳心に対する信頼を大きく損なうものだ。アメリカの外交官たちは何十年にもわたって他国に対し、報道の自由や平和的に抗議する権利を尊重せよと、もっともらしく説いてきた。だがアメリカ自身が、自ら構築してきた国際秩序を放棄しようとしている今、そうしたメッセージに耳を傾ける者はほとんどいなくなっている。

「過去1週間に起こったことが、アメリカと、アメリカが掲げてきた輝かしい理念に対する信頼の低下をさらに悪化させることになったかもしれない」とローマンは分析する。近年のアメリカが常軌を逸しているように見えるのはトランプのせいだ、と主張する多くのアメリカ人の中にも、トランプを支えるアメリカという土台そのものがおかしいことに気付かされた人がいるに違いない。「過去10年間のかなりの部分において、私たちはアメリカを美化し過ぎていたのではないか。いまヨーロッパでは、その実態を把握しようという動きが進んでいる」と彼は言う。

もちろん、ヨーロッパの反応には矛盾もある。欧州委員会のマルガリティス・シナス副委員長は、ヨーロッパでは警察がデモ隊に手荒な真似をするようなことは起こり得ないと主張したが、実際には起こっている。直近の2019年を見ても、スペインではカタルーニャ自治州の独立を訴えるデモ隊と治安部隊が激しく衝突したし、フランスでは機動隊が「黄色いベスト運動」の参加者たちに暴力を振るった。

<参考記事>トランプが国民に銃を向ければアメリカは終わる
<参考記事>【世論調査】アメリカ人の過半数が米軍による暴動鎮圧を支持

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