石油タンカーが攻撃されても、トランプが反撃しない理由

2019年6月17日(月)11時40分
ジョシュア・キーティング

<一連の攻撃の黒幕がイランで、米政府の「最大級の圧力」に対する反撃だとしても......>

アメリカとイランの緊張が高まっている最中、アメリカの同盟国が所有する石油タンカーが6月13日、イラン沖合のオマーン湾で攻撃を受けた。

攻撃があったのは地政学的な要衝とされるホルムズ海峡に近く、ポンペオ米国務長官はイラン政府の関与を断言した(イランは否定)。被害を受けたのは日本と台湾の企業が所有するタンカー2隻で、機雷などの爆弾に攻撃された。日本の安倍首相がイランを訪問中に日本のタンカーが襲われたことは特筆すべきだろう。(本誌10ページと36ページに関連記事)

米政府高官がどのような情報に接したのかは不明だが、イランはかねてアメリカによる制裁の報復として、世界の海上石油輸送の3割が通過するホルムズ海峡を封鎖すると脅してきた。実際、このところ同地域の石油関連施設に連続攻撃が行われており、5月にはイランから資金や武器の支援を受けるイエメンのイスラム教シーア派武装組織ホーシー派が犯行声明を出した。

煙を上げる台湾のタンカー ISNA-REUTERS

一連の攻撃の黒幕がイランで、米政府の「最大級の圧力」に対する反撃だとしても、イランはホーシー派を隠れみのに使って自身の関与を否定できる。そして、アメリカが全面的な武力行使に出るほどの攻撃には至っていない。

これまでトランプ米大統領はイランが「正式な終焉」を迎えると脅してきたが、今のところはイランが交渉に応じるか、経済制裁の圧力で体制が崩壊することを期待する一方で強硬姿勢を軟化させている。アメリカの国民や国益が直接的な被害を受けない限り、トランプがイランを攻撃することはないだろう。

これが意味するのは何か。中東におけるアメリカの同盟国、とりわけこれまでイランに対して強硬姿勢を取るよう米政権に促されてきた国々が、その方針に対する最も大きなしっぺ返しを受ける、ということだろう。

© 2019 The Slate Group

<2019年6月25日号掲載>


※6月25日号(6月18日発売)は「弾圧中国の限界」特集。ウイグルから香港、そして台湾へ――。強権政治を拡大し続ける共産党の落とし穴とは何か。香港デモと中国の限界に迫る。


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