習近平が仕掛ける「清朝」歴史戦争

2019年2月16日(土)16時00分
パメラ・カイル・クロスリー(ダートマス大学教授)

だが領土主権について、この種の信頼性が低く、法的正当性を欠く原理に固執する現代国家はほかにない。現在では、国境線は怪しげで検証不可能な歴史的主張ではなく、条約や国際社会の承認によって決まる。

ただし、共産党が習の歴史観を受け入れさせたい相手は外国人の歴史家や外交官ではない。中国国民だ。中国の「伝統」を重視する習の姿勢に合わせて、「ニヒリズム」批判は激化している。共産党は歴史を敵との戦いの主戦場と位置付け、外国人歴史家への「攻撃」を強化するよう中国の研究者に求めている。

党機関紙・人民日報に先日、学術誌「歴史研究」の論説が転載された。論説の筆者は、多くの中国の歴史家が外国のニヒリストの軍門に下り、「党と人民の要求に応えているとは到底言い難い」と、同僚を叱責した。

多くの中国研究者が、チベット、新疆、内モンゴルの文化と社会に対する習の無慈悲な戦争を非難している。それは歴史とは何の関係もない。現代における人間愛と良心の問題だ。「歴史ニヒリズム」とは、過去を現在の都合に合わせて利用する立場の否定にほかならない。

(筆者は清帝国と現代中国の専門家。中央・内陸アジア史、世界史についても執筆している)

From Foreign Policy Magazine

<本誌2019年02月19日号掲載>

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