不良債権による金融危機が「静かに」進行中──世界経済が直面する悪夢のシナリオ

2021年1月4日(月)10時30分
カーメン・ラインハート(世界銀行副総裁兼チーフエコノミスト)

リーマン・ショックは人々の記憶に焼き付いているが CHIP EAST-REUTERS

あらゆる地域の金融機関が既存のローンに一定期間の返済猶予を与え、多くの場合は金利を下げるなど借り手を救済するための債務契約の再交渉に応じている。

こうした措置の背景には、公衆衛生上の危機は一時的な現象で、感染拡大が収まれば経済はV字回復するとの期待感があった。だが、コロナ禍は予想以上に長引き、企業や家計へのテコ入れは2021年にも続ける必要がありそうだ。

多くの国の政府は、金融機関が融資先を支援しやすいよう不良債権の指定に関する規制を緩和してきた。その結果、不良債権比率が低く見積もられている可能性がある。国によってはその度合いがかなり大きいだろう。

貸し倒れのリスクに十分な準備ができていなければ、銀行がバタバタ倒れる事態も起こり得る。もともと規制が緩いノンバンクはさらに大きなリスクを抱えているはずだ。

民間部門のこうした状況に加え、各国の国債の信用力を示すソブリン格付けの引き下げも2020年には記録的なレベルに達した(下のグラフ)。先進国も例外ではないが、ソブリン格付けがジャンク債並みかそれに近いレベルの新興国や途上国では、格付け引き下げで銀行が大打撃を受けている。極端な場合には、国家がデフォルト(債務不履行)に陥るか、債務の再構築を迫られるだろう。その場合は国債を大量に保有しているその国の中央銀行や民間銀行も壊滅的損失を被ることになる。

本誌2020年12月29日/2021年1月5日号38ページより

2020年3月に筆者が論じたように、有効なワクチンが開発されて早期に感染拡大が収まったとしても、コロナ危機は世界経済と金融機関のバランスシートに大打撃を及ぼす。債務の支払い猶予などの措置は財政・金融政策の従来の範囲を超えた価値ある景気刺激ツールとなっているが、2021年には猶予期間も終わる。

正確なリスク評価が必要

FRB(米連邦準備理事会)が2020年11月に発表した「金融安定性報告書」によると、政策疲れ、もしくは政治的な制約から今後の米政府の財政・金融刺激策は2020年春のピーク時の規模に及ばなくなる見込みだ。多くの新興国や途上国も既に金融政策の限界に達するか、それに近い状況に追い込まれている。2021年には企業や家計が支払い不能に陥るケースが多発しかねない。

コロナ危機以前に企業が多額の債務を抱えていたことが、金融部門の財務上のリスクを増幅させている。世界の第1位と第2位の経済大国であるアメリカと中国は借金大国でもある。この2国には高リスクの借り手も多くいる。ECB(欧州中央銀行)はユーロ圏の金融機関の不良債権比率の増加にたびたび懸念を表明しており、IMFは多くの新興国でドル建て社債の発行残高が著しく増えていることに繰り返し警告を発している。コロナ禍で商業不動産とサービス業など接客産業が受けた打撃も懸念材料となっている。

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