「報道の自由への重大な脅威」を再認識させられる『ニュースの真相』

2016年7月25日(月)16時30分
大場正明

 90年代に起こったこの事件がいま取り上げられるのは、単に事件を蒸し返そうとしているからではない。『Shadow of Liberty』は、巨大企業グループが経営するメディアの世界で、報道の自由が危機に瀕していることを様々な事例を通して掘り下げるドキュメンタリーで、ウェブの事件が紹介される場面では、"killing the messenger"というタイトルが浮かび上がる。ちなみにこの映画には、ダン・ラザーやウィキリークスのジュリアン・アサンジも登場する。一方、『Kill the Messenger』は、ジェレミー・レナーがウェブを力演する劇映画で、題材に対する視点はタイトルが物語っている。

 そこで、もうひとつ筆者が思い出すのが、このコラムでも採り上げたドキュメンタリー『シチズンフォー スノーデンの暴露』が記録している「スノーデン事件」のことだ。スノーデンから機密文書を託され、それをスクープ記事としてガーディアン紙に発表したジャーナリストのグレン・グリーンウォルドに何が起こったか。それは彼が書いた『暴露――スノーデンが私に託したファイル』の第五章「第四権力の堕落」に詳しく綴られている。

【参考記事】スノーデンが告発に踏み切る姿を記録した間違いなく貴重な映像

 彼は組織的な誹謗中傷は想定していたが、ジャーナリストとしての地位を否定しようとするキャンペーンは想定外だったという。元弁護士でジャーナリストとして活動してきた彼は、メディアによって「弁護士」や「ベテランのブロガー」、そして「活動家」と呼ばれるようになった。ジャーナリストの地位が否定されれば、報道の正当性が失われ、活動家にされれば法的な面に影響が出る。そんなふうにして政府が彼の報道を犯罪と見なす土壌ができ、政治家から起訴しようとする動きが出てくる。

今だから思い起こされる「報道の自由への重大な脅威」

 しかしこのときには、グリーンウォルドが孤立するのではなく、ジャーナリストたちが反撃に出た。そして、そんな動きからは、オバマ政権がいかにジャーナリストに圧力や攻撃を加えているのかが明らかになる。国家による報道の自由への攻撃を監視する国際機関<ジャーナリスト保護委員会>は、そんな状況を危惧し、設立以来初となるアメリカ合衆国に関するレポートを発表した。そのレポートは以下のように結論づけられている。


「情報漏洩に対する現政権の対決姿勢や、情報管理を徹底しようとする動きが現在、ニクソン政権以来、最も攻撃的なものになっている......さまざまな報道機関のベテラン政治記者三十人に取材したが、過去にこれほどの攻撃を経験した者はひとりもいなかった」

 ここまで書いてきたことを踏まえるなら、『ニュースの真相』が、ただ事件を蒸し返そうとする映画ではないことがわかるし、メアリー・メイプスが原作で使っている"kill the messenger"が、都合がよすぎる表現ともいえなくなるのではないか。

 確かに、メアリーとスタッフの取材や報道には問題があり、彼らには責任がある。しかし、保守派のブロガーやそれに同調した大手メディア、保身に走るCBS上層部などが結びつき、彼らを裁くことだけに主眼が置かれ、軍歴詐称疑惑が見過ごされても、ジャーナリズムに対するブロガーの勝利といえるのだろうか。

 「アメリカ史上最も透明性の高い政府」を目指していたはずのオバマ政権が、「報道の自由への重大な脅威」になってしまったことと、それ以前の時代から積み重ねられてきた"kill the messenger"の風潮は決して無関係ではないだろう。『ニュースの真相』は、現在のアメリカにおける政治と企業メディアとジャーナリズムについて考えさせる映画でもある。


《参照/引用文献》
『Truth and Duty: The Press, the President, and the Privilege of Power』Mary Mapes(St. Martin's Press, 2006)
『暴露――スノーデンが私に託したファイル』グレン・グリーンウォルド 田口俊樹・濱野大道・武藤陽生訳(新潮社、2014年)

○『ニュースの真相』
監督:ジェームズ・ヴァンダービルト
公開:8月5日、TOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次公開
(c) 2015 FEA Productions, Ltd. All Rights Reserved

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