実は福祉大国アメリカ 予算教書があぶりだした意外な素顔

2017年6月6日(火)12時20分
加谷珪一

教書で想定している税収を確保するためには、米国経済が実質3%の成長を維持する必要があるが、現状の米国経済ではこの水準を達成するのは難しそうである。国際通貨基金(IMF)では2017年について2.3%、2018年については2.5%の成長を見込んでいるが、もう一段の起爆剤がないと3%成長の達成は難しい。

大型減税に加えて、1兆ドルのインフラ投資が全額実施されれば3%成長は可能かもしれないが、政府による真水は2000億ドルのみであり、残りの8000億ドルにはすでに支出が決まっている民間の投資が含まれてしまう。1年あたりの真水の金額は200億ドル程度なので、それほど大きな景気の押し上げ効果はないだろう。国債の大増発は行われないので、減税分とインフラ投資の支出は相殺されてしまう。

すでに議会の財政均衡派からは減税規模の縮小を求める声が上がっており、教書の内容に沿った形で予算案が成立する可能性は低いと見てよいだろう。そうなってしまうと所定の経済効果は得られなくなる。当初、トランプ氏が掲げていた大胆な公約と比較すると一回りサイズが小さくなる可能性が高く、見積もりの甘さが議論を呼ぶことになりそうだ。


米国は意外と福祉大国だった?

もうひとつの財源として取り上げられているのが福祉予算の大幅な削減である。

米国は弱肉強食の低福祉国家というイメージがあるが、実際はそうでもない。欧州の福祉国家を基準にすると米国は低福祉といえるかもしれないが、日本との比較ではむしろ福祉は充実している部分も多い。

米国には、低所得者向けの医療保険であるメディケイドや食料配給券制度(SNAP:旧フードスタンプ)、子育て世帯向けの粉ミルク支援策(WIC)、賃貸住宅補助(いわゆるセクション8)、給食の無料券など、数多くの低所得者向け支援制度がある。予算規模は大きく、メディケイド(低所得者医療保険制度)は年間5700億ドル(約63兆円、州政府分含む)、SNAPは年間700億ドル(約7.7兆円)に達する。

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