フェイスブック「グラフサーチ」は例によって怖い

2013年1月19日(土)15時04分
瀧口範子

 フェイスブックが、独自の検索サービス「グラフサーチ」を発表した。

 同じ検索と言っても、グラフサーチはグーグルやマイクロソフトのビングのような、ウェブ全体をオープンにサーチする技術ではなく、フェイスブック上の友達が共有している情報や、その他のユーザーがパブリックとして設定している情報の中をサーチできるもの。すべての検索結果は、友達という「人」がアップした情報の中から出てくる。その意味では、フェイスブックが言うように「もっとパーソナルな」サーチなのである。

 確かにそうだろう。このグラフサーチを使うと、友達、そして友達のさらに友達の中から犬が好きな人を探し出したり、ハイキングが趣味の人、バーベキュー料理に凝っている人などを見つけ出したりすることができる。フェイスブックがグラフサーチのビデオで情感豊かに伝えているように、そうした人々がつながり合って、一緒にスキーへ行ったりキャンプファイアーを囲んだりして、人生で忘れられない時を共に過ごしたりすることができるだろう。

 また、写真をサーチすることも可能だ。「1970年より前に撮影された写真」などと入力すると、友達がまだ小さかった頃の写真とか、懐かしい古い町並みなどが出てくる。やはりフェイスブックがビデオで伝えているように、ノスタルジックな気持ちに身を任せ、一瞬でも幸せな気分に浸ることができるだろう。

 しかし、そんな誘惑をはねのけて、どんなイヤなことが起こり得るのかもちょっと考えてみよう。

 もちろん、その前にニュートラルに役に立つという使い道はたくさんあることは指摘しておこう。たとえば、今度シカゴに出張があるのだけれど、その際には友人たちがお勧めするシカゴのレストランがわかるとか、腕のいい歯医者さんを教えてもらえるといったことである。このグラフサーチには「いいね!」ボタンの記録も含まれるので、そうした評価が簡単に見られる。

 ユーザーがそうした情報をパブリックにしていれば、情報がもっとアップグレードされる。たとえば、この地域に住むインド出身の人たちが気に入っているインドレストランはどこかとか、スタンフォード大学の教授が読んだお気に入りの本とか、グーグルの社員が聴いている音楽とか、そういった面白く、かつ参考になるという情報がたくさん手に入るのだ。

 だが、イヤな例もいろいろ考えられる。

 たとえば、同じ町に住む人がアップした写真をサーチする。そうすると、近所の住民のビキニ姿とかロマンチックな旅行でのスナップショットが出てきたりする。見る方はいいだろうが、見られる方はどうだろう。つまり、このグラフサーチによって、友達には見られてもいいけれど近所の人にはちょっと、という情報もお手軽に、そしておかまいなしに表示されるのである。少々気をつけた方がいいだろう。

 また、グラフサーチによって、フェイスブックはデートサイトや職探しサイトにも一歩近づいたと見られているのだが、そちらの面でもイヤなことが起こりうる。サンフランシスコに住む独身女性で、最近話題になっているソフトなエロ小説が好き、みたいなことを何気なくアップしていると、誰かまったく知らない人がコンタクトを取ってくるかもしれない。おまけに近所で撮影したプロフィール写真などを使っていると、場所を特定して待ち伏せしているなどということもあり得る。ちょっと心配性に過ぎるかもしれないが、決して不可能なことではないのだ。

 このグラフサーチは、人、趣味、写真、場所などの基本項目で検索ができるが、創意工夫によって、検索内容をどんどん突き詰めていくことができる。何をアップするか、何をパブリックにするかについて、これまで以上に注意を払う必要が出てきたということである。

 そしていつものことだが、グラフサーチもフェイスブックの金儲けのツールである。ユーザーはグラフサーチを使って、フェイスブック上でもっと多くの時間を過ごすようになるだろう。またユーザーが自分の関心ごとを入力するから、ユーザーのプロファイルの内容が濃くなって、そのデータはもっと売り物になる。それにグラフサーチで検索をかければ、ユーザー自身がフェイスブック上の情報をカテゴライズすることになるので、ニッチなターゲット広告のためにうってつけの機会を提供するのだ。

 とりあえず、アメリカのユーザーに限って公開されたグラフサーチは、今のところまだベータ版で、すべてのユーザーが使えるわけではない。また精度もまだまだという状態だ。しかし、この技術が先鋭化していくと、いろいろ予想外のことが起こるだろう。ここは「プライバシー設定」の手綱を、再びしっかりと締めておくことが肝要だ。

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