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食文化

登録のポイントは「お雑煮」だった...「和食」のユネスコ無形文化遺産登録、「知られざる舞台裏」とは?

2025年12月31日(水)11時00分
村田吉弘(菊乃井 三代目主人)

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写真提供:日本料理アカデミー

実は登録のポイントになったのは「お雑煮」でした。日本では元旦の午前中、北海道から沖縄までどこの家庭でもお雑煮を食べます。全国どこでも、同じ日の同じ時間帯に同じものを食べる国は、他にあまりないでしょう。こうした食と人々の生活や行事との密接なつながりが高く評価されました。

和食の無形文化遺産登録の効果もあり、日本の農林水産物・食品の輸出額は2024年に1兆5000億円を超え、登録前の3倍以上に伸びました。現在も世界の各地で日本料理店が増えています。日本料理は世界中で枝葉をだし、幹を太くしている最中です。今は水を与え、下草を刈り、添え木を立てて世話をする時期です。

外国でアレンジされた日本料理を批判したり否定したりするのは簡単ですが、否定の先に未来はありません。

例えば日本に修行に来たことのないアメリカ人の寿司職人がいますが、それで良いと私は考えています。日本人の料理人にはないアイデア・工夫が私たちの学びになることもあります。それこそが日本料理に広がりが出てきたことの証拠です。

和食は、出汁の旨みを中心に構成される料理です。その旨みを支えるのが、昆布や鰹節。けれどいま、海水温の上昇や海の栄養不足などによって、昆布およびほかの海藻の生息地が激減しています。私は、「Ocean Forest Project」という一般社団法人を立ち上げ、日本の海岸線を良質な藻場に変えていく取り組みを始めました。

また、昆布以外の海藻類からも、旨み成分であるグルタミン酸およびタンパク質が抽出できれば、新しい出汁、新しい食ができるかもしれない。ひとつの食材だけに頼り、「これがないからつくれない」というのではいけません。

新しい可能性を探し、考え続けていくこと。それが、日本料理の未来につながっていくと思います。

村田吉弘(Yoshihiro Murata)
1951年生まれ。立命館大学在学中にフランス料理修業のため渡仏。大学卒業後、日本料理の道に入る。現在、日本料理アカデミー名誉理事長、全日本・食学会名誉理事長。「和食」のユネスコ無形文化遺産登録に尽力。和食を日本文化の重要なひとつと考え、世界に発信するとともに、後世に伝え継ぐことをライフワークにしている。2018年「黄綬褒章」受章。同年、料理人として初めての「文化功労者」となった。


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  『アステイオン』103号
  公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
  CEメディアハウス[刊]


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