コラム

日本よ、留学生を「優遇」する国であり続けて

2023年03月27日(月)18時40分
周 来友(しゅう・らいゆう)(経営者、ジャーナリスト)
高田馬場

YUSUKE MORITA-NEWSWEEK JAPAN

<中国人にとって、学費が安く、学費免除の可能性もある日本への留学はコスパがいい。だから「優遇するな」という声はもっともな指摘だが、でもちょっと待ってほしい>

観光客より一足先に、中国から留学生たちが日本に戻り始めている。コロナ禍前、日本は中国人にとって人気の留学先だった。条件は変わっていないから、きっとまた日本留学ブームになるだろう。

新宿区の高田馬場駅周辺には「中国人による中国人のための」大学進学予備校がいくつもある(写真)が、早くも盛況を取り戻しているようだ。

ここで言う条件とは、コストパフォーマンスのこと。中国人にとって日本留学はコスパがいい。

アメリカの大学なら学費だけで年間約300万~500万円は軽くかかる上、米中対立のあおりを受け、中国人は入学しづらくなった。イギリスなども同様だ。例えば私立大学(文系)でも学費が80万円を切る日本は、欧米の大学に比べ断然お得だ。

学費が安いだけでなく「優遇制度」を利用しやすい点も大きい。

成績優秀であれば、学費の一部もしくは全額免除、あるいは返済の必要がない給付型奨学金をもらえる可能性がある。学費と生活費、渡航費まで支給してくれる国費外国人留学制度もある。

私自身は国費留学生ではなかったが、大学院合格後、給付型奨学金を得ることができた。日本には感謝してもし切れず、約30年たった今も恩返しをしたいと思っている。

ただ、30年前に比べ、中国人は裕福になった。留学するわが子のために、親が東京でマンションや車を買ったりすることも珍しくない。そんな時代に、ここまで「コスパがいい」必要はあるだろうか。

2019年、自民党の小野田紀美参院議員が国会で「日本では生活が苦しく、貸与型奨学金という名の借金を背負っている大学生も多いのに、留学生優遇が手厚すぎる」と国費外国人留学制度に疑問を呈したことがあるが、もっともな指摘である。

とはいえ、国費外国人留学制度は、その目的の1つに親日派や両国間の懸け橋となる人材を育成することがあり、つまりは日本の国益のための制度だ。

小野田議員の問題提起には喝采を送りたいが、国益の観点が欠けている点は残念だった。今の時代、留学生に奨学金を与えても懸け橋になることは期待できない? でも、何もしなければ親日派を増やすことはできない。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イランガス田にも攻撃 応酬続く 米・イ

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 

ワールド

米ミネソタで州議員が銃撃受け死亡、容疑者逃走中 知

ワールド

再送-米ロ首脳、イスラエル・イラン情勢で電話会談 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story