最新記事
北朝鮮

北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命

2024年11月21日(木)16時53分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載
ロシアに派遣された北朝鮮兵士たちは帰国できるか

10月にインターネットに投稿されたロシア国内で訓練を行う北朝鮮兵士たちとされる映像より EYEPRESS via Reuters Connect

<ロシアに派遣される北朝鮮兵士は、最終的には数万人規模に達するとの見方もある。将来的に多数が北朝鮮に帰還したとき、彼らの処遇は果たしてどうなるのか?>

ロシアに派兵された北朝鮮兵士がウクライナ軍と交戦し、死傷者も発生したという報道が相次いでいる。このような中、北朝鮮当局も彼らが生きて帰ってくることを望んでいないだろうとする声も聞かれる。

■【動画】北朝鮮兵が「卑猥なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?

兵士の身分のままロシアの建設現場に派遣され、労働者として働いた脱北者のチョン氏(仮名)は最近、韓国デイリーNKとのインタビューで、「現在、ロシアに派兵された軍人たちは出国直前までどこに行くのか分からずにいた可能性がある」と話した。

チョン氏は「北朝鮮軍内部ではロシアに建設労働者として派遣される軍人労働者の海外送出も『派遣』ではなく『派兵』と称するが、軍人労働者にも出国直前まで軍で公式的には派兵地を知らせなかった」と話した。

彼はまた、「北朝鮮は、ロシアに派兵した軍人が戦場から1人でも生きて帰ってくることを望まない」とし、「彼らが戻ってきて、国民に自分が経験した事実を伝えた場合、体制に対する否定的な世論が生じかねないため、体制維持に役立たないからだ」と主張した。

たしかに、韓流コンテンツを流布した人々に対する極刑執行が繰り返されている中、外国の情報に染まった多数の兵士を迎えるのは、北朝鮮当局にとって負担だろう。

(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面

ロシアに派兵された将兵はすでに1万人を超え、中には初めてインターネットに触れた兵士たちが、AVの類にハマり込んでいるとする情報もある。またネットを自由に使えるならば、ほかにも北朝鮮の体制にとってネガティブなコンテンツは、それこそ星の数ほどある。

北朝鮮は新型コロナウイルス対策の国境封鎖を解除して以降も、外国人の大々的な受け入れには慎重だ。感染症対策のほかにも、外部からの「危険要素」の流入をできるだけ排除したいとの思惑があるのだろう。

中朝国境では、情報の流出・流入に使われる中国キャリアの携帯電話に対する厳しい取締りが行われている。

(参考記事:北朝鮮女性を追いつめる「太さ7センチ」の残虐行為

北朝鮮軍のロシア派兵は今後も増え、数万人に到達するとの見方もある。そのうち多数が帰還した場合、彼らに対する思想統制はどうするのか。

チョン氏が言うように、少なくとも国民監視を担う国家機関の中には、「帰ってくるな」と考えている面々もいるかもしれない。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英GDP、第3四半期は前期比+0.1%に鈍化 速報

ワールド

モスクワ南部で自動車爆弾爆発、ロシア軍幹部が死亡=

ビジネス

韓国税務当局、顧客情報流出のクーパンに特別調査=聯

ビジネス

フジ・メディア、村上氏側に株買い増し目的など情報提
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中