最新記事

ウクライナ戦争

ウクライナ戦争へのNATO参戦は...「あるとしたら空軍」 河東哲夫×小泉悠

THE END OF AN ENDLESS WAR

2023年4月9日(日)06時10分
小泉 悠(軍事評論家)、河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)、ニューズウィーク日本版編集部
NATO

ユーゴスラビアのときはNATOが空軍を出したが(2022年10月の演習) Lisi Niesner-REUTERS

<戦況がロシアに有利になればNATO介入の可能性が? 「ドイツの陸軍は空洞化が激しい」と河東氏。日本有数のロシア通である2人が見る、ウクライナ戦争のこれからの展開>

※本誌2023年4月4日号および4月11日号に掲載の「小泉悠×河東哲夫 ウクライナ戦争 超分析」特集、計20ページに及ぶ対談記事より抜粋。対談は3月11日に東京で行われた。聞き手は本誌編集長の長岡義博。

【動画で見る】ウクライナ戦争の「天王山」と知られざる爆破陰謀論(小泉悠×河東哲夫 対談)

――バフムートで激戦が続いています。ロシアが押し返す、勝ちすぎる状況になるとNATOが参戦する可能性はありますか?

■小泉 僕は難しいと思いますね。NATOとロシアはお互いに直接対決は絶対に避けたいと考えるでしょう。バフムートが落ちたから全ての戦局がロシア有利に傾くかというと、そうではない。(ウクライナ軍総司令官のワレリー・)ザルジニーは放棄してもいいと言っているぐらいですから、バフムートが落ちても軍事的破局にはならないです。

怖いのはバフムートでロシア軍がウクライナを負かして、組織的な抵抗ができない大穴が開いてしまう、そこからロシア軍の予備戦力がドッと流れ込んできて、ドニエプル川の東側を席巻すると目も当てられないですけど。

1月の終わりにロシア軍が大攻勢を始めているんだけども、ずっとそうなっていない。押してはいるんだけど、ウクライナ軍をちょっとずつ押すことしかできてなくて、ドカンと穴を開けて戦線に破局をもたらすということが、ロシア軍は動員を行ってさえできなかった。

ウクライナ軍とすれば、押されながらも東部正面ではロシア軍に出血を強いながら、ゆっくり後退していく。いわゆる遅滞戦術ですね。遅滞戦術を取って、どこか別の手薄な場所に反攻をかければいいという見通しが立つ。

これだけでNATOは介入してこないだろうと思います。介入するとすれば、ロシアが核を使って大量に民間人を殺傷したときでしょう。

■河東 NATO介入の可能性があるとしたら、ユーゴスラビアのときのように空軍ぐらいだろうと思います。陸軍が出てくるかというと、NATOの陸軍って本当にあるの?と聞きたくなる。一応、帳簿上はあるけれども、戦いたくない人たちばかり。

特にドイツの陸軍は空洞化が激しいようです。軍の中にはクーデターを試みるような過激右翼もいる。ウクライナに手を出すとNATO軍の空洞化がばれるからやめたほうがいいと思いますが、空軍が出てくることは十分あると思います。

■小泉 アフガニスタン戦争を率いたデービッド・ペトレアスがこの戦争について活発に発言しているんですが、ロシアが核を使った場合、河東先生がおっしゃるように航空・宇宙戦力でロシア軍を一掃するという言い方をしています。これはあり得ると思います。精密誘導兵器とそれを支える情報通信能力を使って、本当にロシア軍がウクライナで戦争するのが根本的に困難になるぐらいの通常打撃で報復をする。

ただこれも、エスカレーションが極まり切った場合での選択肢です。簡単にこのオプションは使えないし、かといってロシアもやっぱり簡単に核は使えない。ロシアと西側の相互抑止は働いているんですよ。働いているなかで、ロシアは西側を抑止しながらウクライナと通常戦力で戦っている。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、トルコ大統領との会談希望 7月の上海協

ビジネス

米ウィーワークのトリーCEOが辞任、後任は不動産業

ワールド

バイデン氏、仏指導者と連携継続へ 解散総選挙後も=

ビジネス

米オラクル25年度売上高は2桁成長へ、AI需要追い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 2

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬で決着 「圧倒的勝者」はどっち?

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場へ...義父・国王の「シルバー・ジュビリー」に出席

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    たった1日10分の筋トレが人生を変える...大人になっ…

  • 6

    長距離ドローンがロシア奥深くに「退避」していたSU-…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 10

    【衛星画像】北朝鮮が非武装地帯沿いの森林を切り開…

  • 1

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 2

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 3

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 6

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 10

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中