ウクライナ戦争へのNATO参戦は...「あるとしたら空軍」 河東哲夫×小泉悠
THE END OF AN ENDLESS WAR
ユーゴスラビアのときはNATOが空軍を出したが(2022年10月の演習) Lisi Niesner-REUTERS
<戦況がロシアに有利になればNATO介入の可能性が? 「ドイツの陸軍は空洞化が激しい」と河東氏。日本有数のロシア通である2人が見る、ウクライナ戦争のこれからの展開>
※本誌2023年4月4日号および4月11日号に掲載の「小泉悠×河東哲夫 ウクライナ戦争 超分析」特集、計20ページに及ぶ対談記事より抜粋。対談は3月11日に東京で行われた。聞き手は本誌編集長の長岡義博。
【動画で見る】ウクライナ戦争の「天王山」と知られざる爆破陰謀論(小泉悠×河東哲夫 対談)
――バフムートで激戦が続いています。ロシアが押し返す、勝ちすぎる状況になるとNATOが参戦する可能性はありますか?
■小泉 僕は難しいと思いますね。NATOとロシアはお互いに直接対決は絶対に避けたいと考えるでしょう。バフムートが落ちたから全ての戦局がロシア有利に傾くかというと、そうではない。(ウクライナ軍総司令官のワレリー・)ザルジニーは放棄してもいいと言っているぐらいですから、バフムートが落ちても軍事的破局にはならないです。
怖いのはバフムートでロシア軍がウクライナを負かして、組織的な抵抗ができない大穴が開いてしまう、そこからロシア軍の予備戦力がドッと流れ込んできて、ドニエプル川の東側を席巻すると目も当てられないですけど。
1月の終わりにロシア軍が大攻勢を始めているんだけども、ずっとそうなっていない。押してはいるんだけど、ウクライナ軍をちょっとずつ押すことしかできてなくて、ドカンと穴を開けて戦線に破局をもたらすということが、ロシア軍は動員を行ってさえできなかった。
ウクライナ軍とすれば、押されながらも東部正面ではロシア軍に出血を強いながら、ゆっくり後退していく。いわゆる遅滞戦術ですね。遅滞戦術を取って、どこか別の手薄な場所に反攻をかければいいという見通しが立つ。
これだけでNATOは介入してこないだろうと思います。介入するとすれば、ロシアが核を使って大量に民間人を殺傷したときでしょう。
■河東 NATO介入の可能性があるとしたら、ユーゴスラビアのときのように空軍ぐらいだろうと思います。陸軍が出てくるかというと、NATOの陸軍って本当にあるの?と聞きたくなる。一応、帳簿上はあるけれども、戦いたくない人たちばかり。
特にドイツの陸軍は空洞化が激しいようです。軍の中にはクーデターを試みるような過激右翼もいる。ウクライナに手を出すとNATO軍の空洞化がばれるからやめたほうがいいと思いますが、空軍が出てくることは十分あると思います。
■小泉 アフガニスタン戦争を率いたデービッド・ペトレアスがこの戦争について活発に発言しているんですが、ロシアが核を使った場合、河東先生がおっしゃるように航空・宇宙戦力でロシア軍を一掃するという言い方をしています。これはあり得ると思います。精密誘導兵器とそれを支える情報通信能力を使って、本当にロシア軍がウクライナで戦争するのが根本的に困難になるぐらいの通常打撃で報復をする。
ただこれも、エスカレーションが極まり切った場合での選択肢です。簡単にこのオプションは使えないし、かといってロシアもやっぱり簡単に核は使えない。ロシアと西側の相互抑止は働いているんですよ。働いているなかで、ロシアは西側を抑止しながらウクライナと通常戦力で戦っている。