最新記事

中国

裁判所まである!中国の非合法「海外警察署」の実態を暴く

XI’S POLICE STATE–IN THE U.S.

2023年1月28日(土)16時20分
ディディ・キルステン・タトロウ(本誌米国版・国際問題担当)
習近平

習近平主席を新型ウイルスに見立てた陳維明の作品。陳は命を狙われ、像は何者かに火を放たれた JONAS YUAN

<NYでは弁護士が殺害された――。人権団体の報告書「中国の在外警察署の暴走」は世界中に衝撃を与えたが、本誌の調査で代理法廷のような施設の存在も明らかに。世界各地に増殖。他国の主権を無視し、現地の民主派を取り締まっている>

ニューヨーク市内のコロンビア大学で、中国のゼロコロナ政策に反対する抗議集会が開かれたときのこと。

「中国共産党は退陣せよ!」と大書した横断幕に中国人の男が歩み寄り、花束をたたき付け、そのまま群衆に紛れて姿を消した。新疆ウイグル自治区のウルムチにあるロックダウン中の集合住宅で火災が起き、10人が死亡した事件について、中国政府は責任を取れと叫んだ女子学生には別の男が殴りかかった。

同じニューヨーク市クイーンズ区のフラッシング地区(中国系住民が多い)では、汚職の嫌疑をかけられ中国を脱出した弁護士が路上に立ち、中国共産党の解体を求めるプラカードを掲げた。

だが海の向こうからでも、共産党はそれを見ていた。中国に残る彼の家族のもとへ、すぐに警官が来て脅迫した。慌てた彼は、自分の抗議姿をSNSにアップした友人たちに画像の削除を懇願した。

どうやら中国政府は、1989年の天安門事件以降で最大の規模に膨れ上がった民衆の抗議行動を抑え込むため、全体主義の鉄拳をアメリカ大陸まで伸ばし、民衆を支持し習近平政権に抗議する人々の声を封じようと画策しているらしい。

中国政府は長年にわたり、アメリカ在住の中国人による反政府活動を妨害し、取り締まり、米国内でもその意志を貫徹するための出先機関をひそかに構築してきた。

だから反体制派は、アメリカにいても安心できない。摘発された事例を見れば明らかなように、その手口は大胆で、反体制派を黙らせ、中国に連れ戻すためなら手段を選ばない。

中国の警察・公安当局は米国内でプレゼンスを拡大している。中国政府の「在外警察署」については、先にスペインの人権団体「セーフガード・ディフェンダーズ」が全世界に100以上あると報告。米FBI(連邦捜査局)のクリストファー・レイ長官もその存在を認めている。

だが、実際の活動範囲はもっと広く、現地の治安当局と連携しているケースもあるようだ。

本誌が把握している限りでも、中国の非合法な在外警察署や裁判所はニューヨークとサンフランシスコ、そしてロサンゼルスに9カ所あるとみられる。

加えて、中国共産党の対外宣伝工作機関である「中央統一戦線工作部」に所属し、「中国人支援センター」を名乗る正体不明の組織が9カ所あることも分かった。

抗議デモにも要員が潜入

コロンビア大学で社会学と経済学を学ぶ中国人留学生のショーンは、冒頭の抗議集会を組織した1人だ。メディアの取材に応じた彼女は、仲間の女子学生に襲いかかった男の素性は不明だとしつつ、その男は自分も中国政府に抗議しに来たと言っていたと語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中