最新記事

統一教会

なぜ統一教会は今も「大きな影響力」を持っているように見えるのか【石戸諭ルポ前編】

JUDGMENT DAY

2022年9月22日(木)11時05分
石戸 諭(ノンフィクションライター)
統一教会

暗殺事件後、旧統一教会が報じられない日はない(東京・渋谷の日本本部) SOICHIRO KORIYAMA FOR NEWSWEEK JAPAN

<果たして統一教会を「絶対悪」と見るべきなのか。現実には7万~8万票程度動かせる程度の団体だが、政治家とのつながり問題ばかりがクローズアップされている>

「旧統一教会とは、関連団体も含めて今後付き合うことはない。自民党としても関係を切っていくべきだ」

2022年8月、衆議院第二議員会館622号室――。応接間に深々と腰掛けた元文科大臣の下村博文は、そう断言した。渦中の人物である。

大臣在任中の2015年8月、統一教会の「世界平和統一家庭連合」への名称変更が認証されたことが疑惑を呼んだ。下村は2013~2014年に統一教会系の日刊紙「世界日報」の取材や座談会に複数応じている。

発行元の世界日報社は当時、本社を彼の選挙区である板橋区に構え、2016年3月には下村が代表を務める自民党の選挙区支部に6万円を寄付していたことなども相まって、統一教会の悪質な行為を覆い隠すための名称変更に便宜を図ったのではという声が上がった。

注目されたのは文科省元事務次官、前川喜平の証言である。彼は事務方ナンバー2の文部科学審議官だった当時のこととして「(改名に)政治の強い意図が働いているのがわかったが、駄目だと言っても無理だろうと、抵抗できなかった」(東京新聞)と語ったが、下村側は否定した。

差し当たり重要なのは、双方とも決定的な証拠を欠いている点にある。疑惑を指摘する前川は、推論を語ってはいるが直接の当事者ではないし、証拠もない。下村の反論も、録音データや官僚のメモでの裏付けはない。従って、疑惑だけがくすぶり続ける。

ここに、この間の旧統一教会をめぐる問題が集約されている。安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也容疑者が教団への恨みを供述して以降、社会の関心は一気に旧統一教会が政治へ与えてきた影響や「つながり」に傾いていった。

下村は一連の報道の中でも、とりわけ「ズブズブ」だと指摘された政治家であり、教団が自民党に影響を与えた象徴的な事例として名称変更問題が取り沙汰された。

確かにカルト宗教を中心に政治を見れば、下村と統一教会の間に関係はある。濃淡で見ても濃いつながりがあったのは事実だ。他方で、下村がこうもあっさりと「切っていい」と語っているのもまた事実である。

現実を踏まえれば、統一教会は7万~8万票程度しか動かすことができず、参院選の比例代表でいくつかの組織票を組み合わせてやっと1人を当選させることができる程度の集団にすぎない。公明党、その支持母体の創価学会が持つ約700万票と比べ、文字どおり桁違いに少ない。

下村が簡単に「切る」と言えるのも、当然といえば当然なのだ。

だが集票力が小さいことは問題がないことを意味しない。

政治家がカルトに「信用保証」として利用されたこと、選挙にプラスだからと利用したことも問題だった。政治家が悪質な勧誘や破産者が出るほどの高額献金、霊感商法など問題があるカルトに支持を求めてはいけなかった。支援や支持を得るのなら情報公開は必須だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国で値下げ競争激化、デフレ長期化懸念 

ワールド

米政権、農場やホテルでの不法移民摘発一時停止を指示

ワールド

焦点:イスラエルのイラン攻撃、真の目標は「体制転換

ワールド

イランとイスラエル、再び相互に攻撃 テヘラン空港に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 10
    先進国なのに「出生率2.84」の衝撃...イスラエルだけ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 8
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中