最新記事

ウクライナ戦争

ウクライナ軍最大の攻勢、新しい長距離砲と「お粗末なロシア軍の薄い防衛線」

2022年9月12日(月)15時35分
ジャック・デッチ(フォーリン・ポリシー誌記者)
ウクライナ軍

ドンバス地方のバフムート近郊で戦車に乗るウクライナ兵(9月7日) AMMAR AWADーREUTERS

<南部と東部の同時反抗作戦により、ロシア軍は後手に回っている。ゼレンスキー大統領の顧問は「ロシア軍を崩壊させることができると思う」と言った>

ウクライナ軍は南部と東部の同時反攻作戦で約700平方キロ以上の領土を奪還した。ここ数カ月で最も重要な前進と言えるかもしれない。

東部ドンバス地方では数週間にわたり戦線が膠着していたが、ウクライナ軍は9月初めに国内第2の都市ハルキウ(ハリコフ)からロシア軍を押し戻し始め、重要な補給線の遮断にも成功しそうな勢いだ。

ウクライナは東のハルキウ方面と南のヘルソン方面の2正面で攻勢をかけ、ロシア軍は後手に回っている。

ウクライナのゼレンスキー大統領の顧問ティモフィー・ミロバノフは、「私の理解では、あらゆる場所で攻勢に出ている」と語る。

ここ数日のウクライナ軍の素早い前進は、ロシア軍を首都キーウ(キエフ)近郊から追い出して以来、おそらくこの戦争最大の攻勢だろう。そのスピードには一部のウクライナ政府高官も驚いている。

ウクライナ軍は9月8日、ハルキウ州の20以上の集落を奪還したと発表。攻勢が可能になったのは、一部にはアメリカの長距離砲のおかげだ。

「ロシア軍に打撃を与える新しい長距離砲に加え、お粗末なタイミングで兵力を再配置しようとしたロシア軍の薄い防衛線を突いた」と、スウェーデン国防大学のオスカー・ヨンソンは指摘する。

ウクライナ軍は今回の攻勢で、4月に奪われた要所イジュームの奪還と、補給拠点クプヤンシクの遮断も視野に入った。

ロシアのプーチン大統領は8月25日、1月以降の13万7000人の兵力増員を発表した。おそらくウクライナでの損耗を埋め合わせるためだ。

ウクライナ当局者は今回の攻勢で優位に立てている理由について、欧米から供与された多連装ロケットシステム(MLRS)の射程内にあるヘルソンにロシア軍がハルキウから増援部隊を送っている最中で、防御線が手薄になっていたためだろうとの見方を示した。

ロシアはハルキウ近郊の兵員に、普段は国内の治安を担当する「国家親衛隊」のような実戦経験の浅い部隊も補充していると、ウクライナ議会のオレクシー・ゴンチャレンコ議員は指摘する。

ロシアの兵員不足はもっと深刻だという見方もある。大統領顧問のミロバノフは、「ウクライナ東部には住民全員が補充兵にされた村もある。誰も残っていない」と語る。

今回の攻勢の背後には、奪われた土地の奪還を急ぎたいウクライナの事情もある。厳しい冬が来れば、大量の雪が降り、気温は氷点下になる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州委員長、ハンガリーにプライドパレードの許可要請

ワールド

北朝鮮、ウクライナ戦争に追加派兵か 7月か8月にも

ワールド

ガザで21人死亡、学校など空爆 調停国が停戦交渉呼

ワールド

トランプ氏、26年度国防予算でドローンとミサイル増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 5
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 6
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 9
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 10
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 8
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中