最新記事

ミャンマー

ミャンマー活動家の親に国軍が圧力「家を失いたくなければ親子の縁を切れ」

Myanmar Military to Parents: Disown Dissenting Children or Lose Your Home

2022年2月15日(火)21時33分
ジャレン・スモール

民主化指導者アウンサンスーチーの写真入りマスクで抵抗の意を表すミャンマー人(2021年12月、東京) Issei Kato-REUTERS

<クーデターで政権を握った国軍が、民主活動家に圧力をかける目的で、両親を脅しているとみられる>

ミャンマーのサッカー選手、ピエ・リヤン・アウンは2021年5月、サッカー・ワールドカップの予選に出場するため、ミャンマー代表チームの他のメンバーと共に日本にやってきた。日本との試合が始まる直前、同選手は3本の指を立てるポーズをした。同年2月に起きた軍部によるクーデターに、抗議の意思を示したのだ(同選手は、帰国すれば迫害を受けるおそれがあるとして日本にとどまり、その後難民認定された)。

それから9カ月経った2022年2月8日、ピエ・リヤン・アウンの父親は、国営の地元新聞に広告を掲載した。息子と親子の縁を切り、息子とは一切関係がないと公に宣告する内容だった。

「ピエ・リヤン・アウンは、さまざまな問題と失望の源となった」と、父親の弁護士は声明で述べている。

ミャンマーでは、子どもが民主化運動を支持したことを理由に実の子との絶縁を迫られる家族が増えており、ピエ・リアン・アウンの一件もその一例だ。

この3カ月間ほど毎日、1日平均で6、7家族が、同国の国営新聞に広告を掲載している。クーデターで生まれた軍事政権に対して公然と反対の意を示した娘や息子、めい、おい、孫との縁を切る内容だ。

国軍が親を脅している

親戚との絶縁の意志を公式に表明する行為は、ミャンマーでは以前から行われてきた習慣だ。しかし、同国軍が2021年11月、反政府派の者が属する家を強制的に捜索し、財産を没収し、抗議行動参加者をかくまった人たちを逮捕すると発表して以来、絶縁を表明する広告の掲載が急増している。

国軍総司令官のミン・アウン・フラインに率いられた軍事政権は、2021年2月のクーデターで民主的な選挙で選ばれた政府から政権を奪取して以来、9000人以上を逮捕し、殺された抗議参加者の数は1547人にのぼると推定されている(ビルマ政治囚支援協会=AAPP調べ)。

同国の状況に詳しい人々は、絶縁の意思表明はその多くが、脅迫の下で行われたものではないかと懸念している。

2021年にミャンマーから国外脱出したリン・リン・ボー・ボーは、自身の母親から絶縁を告げられたと明かした。その前には、リン・リン・ボー・ボーを捜索していた武装兵士の一団が母親の家に押し入るという事件が起きていた。新聞に絶縁の広告が出たのはその数日後で。リン・リン・ボー・ボーは涙を流したという

「圧力を受けている状況下では、家族はこうするしかなかったのだと同志たちは励まそうとしてくれた」と、現在タイの街に住むリン・リン・ボー・ボーは、ロイターの取材に対して述べている。「だが、ショックだった」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラの「ギガキャスト」計画後退、事業環境の逆風反

ワールド

ロシア、ウクライナで化学兵器使用 禁止条約に違反=

ビジネス

ドル一時153円まで4円超下落、再び介入観測 日本

ワールド

米、新たな対ロシア制裁発表 中国企業を狙い撃ち
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中