最新記事

東日本大震災

震災から10年、検証なきインフラ投資 復興に重い課題

2021年3月10日(水)10時32分

東日本大震災の発生から10年で投入された復興予算はおよそ31兆円。阪神淡路大震災復興事業費の2倍程度に相当する。このうち防潮堤や宅地整備などのインフラ整備には十分な費用対効果の検証が行われないまま、巨費が投入された経緯が浮かびあがってきた。写真は、岩手県陸前高田市の防波堤で釣りをする人。2月28日撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)

東日本大震災の発生から10年で投入された復興予算はおよそ31兆円。阪神淡路大震災復興事業費の2倍程度に相当する。このうち防潮堤や宅地整備などのインフラ整備には十分な費用対効果の検証が行われないまま、巨費が投入された経緯が浮かびあがってきた。ハード面に偏った復興のツケは、人口減や高齢化が急速に進む地方自治体に深刻な人材不足を招いており、街の再生に重い課題を突き付けている。

防潮堤建設に不要論通らず

大津波に襲われた宮城県気仙沼市では、104か所にも及ぶ防潮堤が築かれつつある。「そのうち数か所は陸側に住宅も店舗も企業も何もない場所で、心の安心のための防潮堤だ」。同市市議会の今川悟議員はそう漏らす。それでも、車が通る、あるいは誰かが通りかかって津波がきたらどうするんだと言われれば、誰も反対できないのが防潮堤だとも話す。

被災6県では、総延長約432キロの防潮堤のおよそ8割が完成。総事業費は約1.4兆円にのぼる。今川議員によると、そのうち気仙沼市の防潮堤費用は2200億円以上を占めるという。

2014年当時、参議院では国土交通省及び農林水産省に対して、気仙沼市の小泉地区防潮堤を例に、どのような費用便益分析を実施したか、という質問書が和田政宗議員から提出された。しかし回答は「費用便益分析は行っていない」というものだった。指摘があった小泉地区防潮堤はおよそ500億円弱、同市防潮堤の中でも最大の金額が投入される計画となっていた。

東京大学公共政策大学院からは、この防潮堤の費用対効果を分析した結果、建設によって守られる便益を建設費や維持費が上回り、207億円強の負担超になるとして「計画は見直すべき」との提言があった。

今川議員は、費用対効果を見ない使い方となったのは、復興資金が100%国の歳出であり、使いきることが優先されたためだと語る。国も、インフラ整備計画の内容は地元任せで、余らせて返済されることに難色を示す傾向が強かったという。「資金の費用対効果に誰も責任をとらないという仕組みだった」。

復興住宅、ローンも時間切れ

資金を投じたインフラは、時間の経過とともに移ろう需要に対応できる仕組みとなっていたのか。

陸前高田市では、かさ上げも含む土地区画整理事業費に1657億円を投じた。当初かさ上げは海抜2メートルを想定していたが数年後には10メートルに変更され、投入金額もここまで膨張した。しかし今、その約6割が利用されていない。

平沢勝栄・復興担当相は「これまでに復興には30数兆円使っているが、その多くは道路、橋、公園に投じて、防災まちづくりに使っている。決して無駄なお金ではなかったと思う」(2月フォーリンプレスセンターでの講演)と述べた一方で、「反省点として、被災者住宅の造成地が完成した段階で入居利用者が減り、空き地ができてしまった。被災者の気持ちが変化してしまった」と言及した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 

ワールド

再送-米ロ首脳、イスラエル・イラン情勢で電話会談 

ワールド

イスラエル、イランガス田にも攻撃 応酬続く 米・イ

ワールド

アングル:「暑さは人を殺す」、エネルギー補助削減で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 10
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中