最新記事

反ワクチン

反ワクチン派がフェイスブック上での議論で優勢となっている理由が明らかに

2020年5月19日(火)18時10分
松岡由希子

Facebookを分析し、ワクチンに対する不信感がいかに広がっているかを示す「戦場」マップが作成された Neil F. Johnson (2020), Nature

<2019年に米国で麻疹が流行した際、フェイスブックユーザーのワクチンに関する不信がオンライン上でどのように進展していくのかをマップで可視化した......>

2019年に米国で確認された麻疹(はしか)の感染者は1282名で、1992年以来、最多となった。ワクチン未接種の人々の間で感染が広がったとみられている。

ワクチン未接種の背景としては、ワクチン反対運動を推進する活動家や団体からの偏った情報や意見がソーシャルメディアネットワーク(SNS)を通じて拡散され、予防接種への躊躇や不安感を煽っているとの指摘もある。

●参考記事
反ワクチンのプロパガンダをフェイスブックが助長!? 対策を求める動き

ワクチンへの不信がネットでどのように進展していくのか

米ジョージワシントン大学(GWU)の研究チームは、2019年に米国で麻疹が流行した際、約1億人のフェイスブックユーザーを対象に、ワクチンにまつわる議論を追跡し、ワクチンに関する科学的な専門知識への不信がオンライン上でどのように進展していくのかをマップで可視化した。一連の研究成果は、2020年5月13日に学術雑誌「ネイチャー」で発表されている。

これによると、ワクチン反対派のコミュニティは、現時点で判断を保留している人々に、より効果的にリーチし、この層をうまく取り込んでいることがわかった。研究チームは、ワクチン反対派の意見が、この先10年にわたって、オンライン上での議論を支配する可能性があるとみており、近い将来、新型コロナウイルス感染症に対する予防接種にも影響を及ぼすおそれがあると懸念している。

研究チームは、一連の追跡で、ワクチン賛成派、ワクチン反対派、判断を保留しているコミュニティの3つの陣営を特定。ワクチン反対派の人はワクチン賛成派より少ないものの、そのコミュニティの数は、ワクチン賛成派の約3倍にのぼり、判断を保留しているコミュニティをより積極的に巻き込んでいる。ワクチン賛成派のコミュニティは、規模の大きいワクチン反対派のコミュニティにのみ対抗しており、その裏で、中規模のコミュニティが発展していることもわかった。

ワクチン賛成派のコミュニティは予防接種の公衆衛生上の利点にフォーカスした主張の発信に終始する一方、ワクチン反対派のコミュニティは、ワクチンやその他の確立された医療に対して、安全性への懸念、個人の選択の尊重、陰謀論など、より多様な視点から主張を展開している。

判断を保留している人々は、けして受動的な傍観者ではなく、ワクチンにまつわる情報に積極的に関与している。ワクチン反対派のコミュニティは、この層に様々なアプローチで語りかけることで、その判断に影響を与える確率を高めているわけだ。

matuoka0519a.jpg

フェイスブック上ではワクチン支持者(青)が反ワクチン派(赤)を上回るが、反対派は3倍近くのコミュニティを持っていて、これらの意見が未決定者(緑)に届きやすくなっていた。2019年の麻疹発生時には、反ワクチングループが300パーセント以上の成長を遂げていることがわかった。Neil F. Johnson (2020), Nature

ネット上の『主戦場』を特定し、無力化させる

フェイスブックなどのソーシャルメディアは、ときに、情報を増幅させたり、均一化させることがある。それゆえ、ソーシャルメディア上での健康にまつわるデマや誤報の拡散は、公衆衛生に重要な影響を及ぼす。

研究チームでは、オンライン上でのデマの拡散への対処法として、個々のコミュニティを多様化させることで過激化を遅らせ、発展を抑制させたり、コミュニティ間のつながりを操作して、否定的な意見の拡散を防止するといった方策を勧めている。

研究論文の筆頭著者であるジョージワシントン大学のニール・ジョンソン教授は「政府や公衆衛生当局、ソーシャルメディアの運営者は、デマを生み出し、消費するコミュニティに『モグラたたき』のように対処するのではなく、我々が作成したようなマップを用いてオンライン上の『主戦場』を特定したうえで、公衆衛生に有害なデマを広めるコミュニティに関与し、これを無力化させる必要がある」と説いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪6月失業率は3年半ぶり高水準、8月利下げ観測高ま

ビジネス

アングル:米大手銀トップ、好決算でも慎重 顧客行動

ワールド

WTO、意思決定容易化で停滞打破へ 改革模索

ビジネス

オープンAI、グーグルをクラウドパートナーに追加 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 5
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 6
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 9
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中