最新記事

情報セキュリティー

日韓関係の悪化に伴い激化した、韓国発サイバー攻撃の実態

2019年12月26日(木)16時15分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)

韓国系ハッカーの標的になっているのは日本の政府機関や民間企業、メディア、政治家などだ scyther5/iStock.

<世界中のハッカーがうごめくダークウェブ上で、韓国発の対日サイバー攻撃キャンペーンが確認されていた>

今月24日、中国の成都で安倍晋三首相が韓国の文在寅大統領と会談した。日韓関係が戦後最悪と言われるなかで、1年3カ月ぶりに両者が膝を突き合わせたが、両国関係を改善させるような大きな進展は見られなかった。

安倍首相はこれまで元徴用工への賠償問題などをめぐる文大統領とのやり取りでことごとく裏切られてきた経緯があり、その不信感は根深い。そもそも日本から見ると、ボールは韓国側にあるという認識なので、韓国側が諸問題を国内で解決しない限り、両者の関係が改善する見込みは薄い。

2018年10月に言い渡された韓国大法院(最高裁)の元徴用工への賠償判決以降、日韓関係が悪化の一途を辿るなかで、実はサイバー空間では韓国の不穏な動きの活発化が察知されていた。韓国側から日本に対するサイバー攻撃が増加したと言うのである。筆者の新刊『サイバー戦争の今』(ベスト新書)には韓国や中国、北朝鮮、ロシア、アメリカなどによるサイバー攻撃を詳述しているが、本稿では韓国による最近の対日サイバー攻撃の実態に迫ってみたい。

cyber191226-cover.jpg

世界中の悪意をもつハッカーらがうごめいているダーク(闇)ウェブ(普通のインターネットではアクセスできない闇のインターネット空間)を監視している国外のサイバーセキュリティー専門家によれば、今年2019年に入ってから日本を狙った韓国からのサイバー攻撃が増えている。そして筆者による欧米の情報機関関係者への取材や、国外のサイバーセキュリティー専門家らが作成しているリポートによれば、いくつもの対日サイバー攻撃のキャンペーンが確認されている。

どんな攻撃が起きているか。例えば今年7月18日、ダークウェブの奥深くにある掲示板に、「日本企業を攻撃してくれればカネを払う」というメッセージがアップされた。このメッセージの発信者を追跡すると「韓国陸軍の関係者」の可能性が非常に高いことがわかったという。このポストにはロシア系ハッカーが反応した。そして発信者に、「攻撃者相手のリストと、あなたの携帯番号、そして3.4ビットコインを支払え」とのメッセージが送られた。発信者は「電子メールアドレスを教えてくれ」とリプライし、その後からこのやりとりは途絶えたという。おそらく、両者が直接やりとりを行なっていると考えられる。

日本の大手メディアも標的に

では実際に、このやりとりから日本の企業に攻撃が行われたのだろうか。残念ながら、日本企業はメンツと株価を意識して、受けたサイバー攻撃を公表しない傾向が強いため、その顛末は見えてこない。少なくとも、個人情報などがネット上に漏洩するといった被害でも出ないと、内輪で対処して終わってしまうからだ。

ただこれでは、他の企業なども一向に対策措置を取れない。被害の教訓から学べないからだ。日本がどんな攻撃を受けているのかを把握することなく、将来的な防衛や対策には乗り出せない。

韓国からの攻撃で気になるのは、発信者が、3.4ビットコイン(約270万円、12/25時点)のような大金を支払ってまで日本企業を攻撃しようとしていることだ。つまり個人の韓国の軍人による依頼とは考えにくい。欧米の情報機関関係者は、背後にはより大きな組織が存在している可能性があると言う。「韓国の政府や軍、政府に近い企業。そのどれかが背後にいると考えていい」

さらにダークウェブのフォーラム(掲示板)に中には、日本に対する攻撃をほのめかす動きが検知されている。その情報関係者は、「日本のろくでなしに思い知らせてやる」「日本製品を買ってカネを与えるなんて、韓国人はなんてバカなんだ」「韓国政府は目を覚まして攻撃せよ」といった発言が飛び交っている実態を、実際の画像などで示しながら説明してくれた。

また筆者が取材した国外のサイバーセキュリティー専門家らも、韓国からの攻撃を指摘している。2019年2月から対日サイバー攻撃のキャンペーンは、ダークウェブなどから急増しているという。その攻撃の対象は幅広い。2月以降、検知されている攻撃では、対象はメディアで、大手テレビ局や新聞社、出版社に対して、フィッシングメールなどを送りつけマルウェア(悪意ある不正なプログラム)に感染させようとする工作がスタートしているという。メディアのコンテンツの動向を調べようとしたり、関係者を突き止めようとしているようで、公表されていないがすでに攻撃を察知して特別な対策に乗り出している大手メディアもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

OPECプラス、7月以降も増産継続へ 自主減産解除

ワールド

バチカンでトランプ氏と防空や制裁を協議、30日停戦

ワールド

豪総選挙は与党が勝利、反トランプ追い風 首相続投は

ビジネス

バークシャー第1四半期、現金保有は過去最高 山火事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 3
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 6
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 7
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 8
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中