最新記事
ビジネス

栄養価の高い「どじょう」を休耕田で養殖し、来たるべき日本の食糧危機に立ち向かう

PR

2025年3月29日(土)12時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

日本の地域経済と食糧を守るどじょう養殖

嶋崎氏(前例右から3人目)の取り組みはINACOMEビジネスコンテストで最優秀賞を受賞した

INACOMEビジネスコンテストの存在を知ったのはその頃だ。養殖を進める過程で知り合った、未利用魚の販売に携わる知人から勧められたという。「仕事でよく訪れていた韓国では、多くの人が毎日のようにどじょう汁を食べている。一方の日本ではどじょうの食文化は、一部地域でかろうじて継承されている程度。まずはどじょうのことを知ってもらわなければならず、さまざまなことを宣伝できる機会になればと思い応募した」

栄養価の高いどじょうは食糧危機を救う食物になりうる

現在の日本では食べる機会がほとんどなくなったどじょうに嶋崎氏がこだわるのは、ビジネスとしての可能性や食文化としての価値だけが理由ではない。栄養価が非常に高く、健康的な食物であることに大きな魅力を感じているのだ。高タンパク低脂肪で、カルシウムの含有量はうなぎの9倍といわれ、ビタミンB群、ビタミンA、D、鉄分や亜鉛などのミネラルを多く含む。そのため韓国や中国、ベトナムなどでも食用としてよく利用されている。

「今回、(INACOMEビジネスコンテストの)最優秀賞を受賞した際に、審査委員長の大野泰敬氏(株式会社スペックホルダー代表取締役)から言われた言葉が印象的だった。多くの労力をかけずに大量生産ができるのは凄いし、今後の日本にとっても非常に重要な施策だと思う、と言ってもらえた。そういう意味において、社会に対して非常に有益なビジネスだと感じている」

実は休耕田を活用したどじょうの養殖という手法自体は全国に前例があり、決して珍しいものではない。だが嶋崎氏が取り組む養殖は、同じ志を持つ人たちと連携して規模を拡大させ、さらには全国の休耕田を減らし、どじょうの食文化を復活させ、食糧危機から日本を救うことを目指すという社会貢献度の高さに意義がある。

日本の地域経済と食糧を守るどじょう養殖

DJプロジェクトが提携している養殖の施設(嶋崎氏提供)

日本の地域経済と食糧を守るどじょう養殖

また、つかみ取り体験を中心とした食育に関する教育プログラムとして活用する潜在的な価値もあると嶋崎氏は考えている。最終的には、生産から加工・製造、販売までを手掛ける6次産業化を目指しているという。

「どじょうとの初めての出会いは約20年前。ある食品会社から、焼き肉店にどじょう汁の素として卸すために、どじょうを粉末にしてほしいと依頼されたのがきっかけ。このように粉末状の出汁として商品化すれば、子どもや高齢者もカルシウムなどの栄養を手軽に摂取できる。さらに、さまざまな食材と組み合わせて、クオリティの高い日本の健康食品として海外に売り込むこともできると考えている」と将来を見据える。

嶋崎氏のビジネスは始まったばかりで、成功モデルの確立や、行政との連携による参入しやすくするための環境づくり、栄養価の高い食物としてのどじょうのPRなど、やらなければならないことはまだまだ多い。しかし、すでに大阪、関東全域、熊本、兵庫、岡山などで参入を希望する事業者が現れており、まずは近畿圏で年間2トンの生産量を目指し、順次全国へ拡大していく計画だという。

日本の地域経済と食糧を守るどじょう養殖

DJプロジェクト社内にはどじょうの入った水槽が置かれている(撮影:内藤貞保)


嶋崎 成(しまざき あきら)

DJプロジェクト株式会社 DJグループ代表。1964年東京都生まれ。東京の出版社で働いた後、2000年に妻の実家が営む食品会社で働くために大阪へ転居。その後、食を根本から学ぶために農業研修を受け、2010年頃から自然農法による農業を本格的に始める。2020年からのコロナ禍で、全国の休耕田が社会問題になっていることに着眼し、休耕田を活用したどじょうの養殖を開始。現在、参入する事業者を募り全国展開を計画するともに、輸出も含めたどじょうの6次産業化を目指している。
お問い合わせ:info@dojou-p.com


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:崩れたリスク回避の円買い、投機筋が生んだ

ワールド

原油先物5%急落、イスラエルがイランとの停戦に同意

ワールド

イスラエル首相、トランプ氏の停戦案に同意 イランの

ビジネス

日経平均は4日ぶり反発、中東情勢警戒和らぐ 買い一
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 9
    「水面付近に大群」「1匹でもパニックなのに...」カ…
  • 10
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中