コラム

関電スキャンダルに潜む、見過ごせない3つの問題

2019年10月11日(金)17時15分

日本の原発は住民の「恐怖心」を避けるために必然的に過疎地へ(写真は関西電力高浜原発) Issei Kato-REUTERS

<原発を推進するうえで、「カネの問題」は必要悪として諦めているムードもあるが......>

関西電力の役員などに対する、高浜町元助役からの資金還流事件は、ここへ来て会長、社長が辞意を表明することで、局面が進んだように見えます。ですが、スキャンダルの真相も、そして今回の問題があぶりだした原発ビジネスの構造についても、本質的な議論は進んでいません。

そこで、今回はこの事件に潜んでいる3つの問題について議論したいと思います。

1点目は、資金還流の意味です。通常、工事などを請け負う業者の側としては、発注側である関西電力からの受注欲しさにワイロを渡す可能性はあるかもしれません。ですが、それは発注決定の前の問題であり、今回の事件のように事後にカネを押し付けるように渡すというのは、非常に不自然です。事前に話がついており、ただバレないように時間差をつけて資金還流させたという説明も成り立ちますが、あまり説得力はありません。

ならば、受注のためのワイロを時間差で渡したのでは「ない」シナリオも必要になってきます。「何らかの口封じだった」とか「反対に裏金が関電サイドから流れており、死期を悟って自分と家族の名誉を守るために返却する必要があった」とか、いずれにしてもカネの流れとタイミングに関する捜査が必要です。関電の経営陣は、そうした「カネの意味合い」について、知らぬ存ぜぬではなく、しっかりと捜査に協力すべきと思います。

現在の報道は、こうした「カネの意味合い」に関するツッコミが全く不足しています。そこを外しては、刑事立件や民事係争に持ち込むことができないし、そもそも社会的な批判にもならないからです。

2点目は、原発マネーと言われるコストの甘さに切り込んでいくということです。原発に関係する工事は、よく言えば安全対策、悪く言えば風評懸念を口実に工事をやたらに高品質として高額な請求がされることが多いようです。確かに、原発に関して積極推進が国策だった時代には、それで全体が回っていたのかもしれません。

ですが、福島第一の事故以降は、万が一の事故の場合における直接的な被害への補償だけでなく、風評被害への補償などを考えて、その準備金を積み立てるようになるなど、原発のコスト構造は激変しています。そうであるなら、今回の事件を契機として、工事や経費等の金額に「お手盛り」はないか、全ての原発において総点検が必要と思われます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比4.3%増 民間航空

ワールド

中国、フェンタニル対策検討 米との貿易交渉開始へ手

ワールド

米国務長官、独政党AfD「過激派」指定を非難 方針
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story