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【写真展】情景の「やまびこ」が日本とカナダで共鳴する
YAMABIKO/ECHO
Photographs by George Nobechi
三日月と富士、関東平野(2017年) 葛飾北斎『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』へのオマージュ。日本人の祖父の影響を強く受け、日本特有の美的理念が作品の根底に流れる
<日本とカナダの2つの祖国を持つ写真家・野辺地ジョージの写真展『やまびこ/Echo』(東京・カナダ大使館高円宮記念ギャラリー)が開催中。「ハーフ」ではなく「ダブル」の視点が生み出す和みのハーモニー>
日本とカナダの両国にルーツを持つ写真家、野辺地ジョージの写真展『やまびこ/Echo』では、日本とカナダでそれぞれの日常に起きた小さな奇跡の情景が、大海を越えて溶け合っている。
小学生まで日本で暮らした野辺地は、高校教師だった祖父の影響を強く受け、宮沢賢治や古事記、古今和歌集などの世界に浸った。その後カナダで過ごした経験は、何げない日常にある日本の美を捉える感性を育んだ。カナダでは勇壮な自然の中でも、身に染み込んだ「もののあはれ」や浮世絵などの日本特有の美的理念をもとに景趣を切り取ってきた。すると2カ国で制作した作品の中に、意図せず対となる写真が生まれていた。
東京・赤坂にあるカナダ大使館高円宮記念ギャラリーで開催中の写真展(5月10日まで)では、会場の右側にカナダ、左側に日本で撮影された写真が並ぶ。ここで紹介している対の写真は、太平洋をイメージした中央の広い空間を挟んで、両側の壁にそれぞれが離れて展示されている。
窓越しの風景は、内から外を眺めたのではなく、自らの「心の中をのぞいたもの」だと野辺地は言う。子供の頃には「純粋な日本人ではない」と言われ、カナダでも周囲のカナダ人とは違っていた。両国でアウトサイダーである孤独、「窓からはのぞけるが、どちらへも最後の領域までは踏み込めない自分」が投影されている。
だが、そこに否定的な感情はない。自分と両国との間に微妙な距離があればこそ、インサイダーには見えないものが見える。野辺地は「みんなとは少し違うことは決してマイナスではなくプラス。『ハーフ』ではなく『ダブル』の視点から眺める両国は一層輝かしく見える」と言う。カメラを手にすることでアウトサイダーからオブザーバー(観察者)へと転換し、いつもの風景を美へと昇華させていく。
会場中央にある野辺地のセルフポートレートは、海を隔てた両国の間で両者の本質を見つめる「第三の眼」。共鳴し合う写真の「やまびこ」が、野辺地の追い求める和みのハーモニーを奏でる。
【写真(上から)】
雄島、福井県(2021年) /マリーンレイク・ロード、アルバータ州ジャスパー国立公園(2022年)
特急サロベツの車窓、北海道(2019年)/フェリーの窓、ブリティッシュコロンビア州ホースシューベイ(2019年)
遊ぶ少年、金沢市鈴木大拙館(2017年)/遊ぶ子供と山火事の煙、ブリティッシュコロンビア州ノースバンクーバー(2018年)
愛の泉、京都市嵐山(2018年)/遊覧船、アルバータ州マリーンレイク(2022年)
Photographs by George Nobechi
「やまびこ:日加修好95周年記念 野辺地ジョージ写真展」
5月10日まで、入場料無料。詳細はリンク先のカナダ大使館公式ページをご確認ください。
野辺地ジョージ(写真家)
1980年東京生まれ。2014年まで金融業界でトレーダーとして活動。米ニューヨークの写真祭「フォトヴィル」の鑑賞をきっかけに仕事を辞め、写真家となる。国内外のメディアやギャラリーで作品を発表する傍ら、写真家の育成や地方活性化にも携わる。写真祭「軽井沢フォトフェスト」総監督
【連載開始20周年】 Newsweek日本版 写真連載「Picture Power」
2024年4月9日号 掲載
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