コラム

クリントン家の結婚式は謎だらけ

2010年07月28日(水)20時00分

 クリントン元大統領夫妻の一人娘、チェルシー(30)が7月31日、長年の恋人と結婚式を挙げる。お相手は、スタンフォード大学時代の友人のマーク・メズビンスキー(32)。現在は投資銀行に勤めているが、両親ともに下院議員という政治家家庭に生まれたという点では、チェルシーとの共通項は多そうだ。
 
 父親の大統領退任後はメディアのインタビューにもほとんど応じず、表舞台から遠ざかっていたチェルシーだが、元大統領と現国務長官の娘のお祝い事をマスコミが放っておくはずがない。今回の結婚には、巨額の詐欺事件を起こして5年間服役したメズビンスキーの父親や、チェルシーに「結婚式までに7キロ痩せるよう」命じられた花嫁の父クリントンなど、話題性に事欠かない「脇役」が揃っている。

 徹底した秘密主義も、メディアの興味を一段と掻き立てる要因となっている。何しろ、結婚式と披露パーティーが行われる場所さえ正式に公表されていない。有力なのはニューヨーク州郊外のラインベックという小さな町の高級フランスレストランという説だが、招待客への案内状には「マンハッタンから車で移動できる範囲にいて下さい」とあるだけ。さらに、ラインベックの住民を含むあらゆる関係者が秘密保持の契約書にサインしており、マスコミの必死の取材にも関わらず確実な情報は出てこない。先日も、会場と目されるレストラン付近の立ち入り禁止エリアに侵入したとして、2人のカメラマンが逮捕された。

 秘密主義へのこだわりは、チェルシーを守りたいというクリントン夫妻の愛情の表れか、それとも娘の晴れ舞台まで最大限に利用する政治家魂の表れか。いずれにしても、総額200万ドル(平均的なアメリカ人の結婚式費用の100倍だ)といわれる超豪華ウェディングが、新婚カップルの門出以上の意味をもつことは間違いなさそうだ。

 ワシントンの政治記者が最も注目するのは、400人以上という招待客の顔ぶれだ。リストには、映画監督のスティーブン・スピルバーグや歌手のバーバラ・ストライサンドなど著名な民主党支持者の名前が並んでいるといわれ、オバマ大統領が出席するのではないかとの報道も飛び出した。ホワイトハウスのギブス報道官は「私の知る限りでは(出席)はない」とコメントしたが、支持率が低下しているオバマに代わって、民主党がヒラリーを次期大統領選に擁立するとの憶測も流れるなか、不仲説を封じ込めるためにオバマが飛び入り参加するのではないか、いや、クリントン家のイベントがこれ以上注目される事態は耐えがたいから、出席するはずがないといった憶測が渦巻いている。

 今回の結婚式には、もう一つ注目すべき点がある。どの宗教に則って結婚式を執り行うかという問題だ。チェルシーは、南部バプテスト派の父親とメソディスト派の母親をもつキリスト教徒だが、メズビンスキー家はユダヤ教保守派に属している。ユダヤ教保守派は他宗教の信者との結婚に消極的で、結婚相手がユダヤ教に改宗しないかぎり、ラビが結婚式を執り行うことを禁じている。

 宗教の壁を乗り越えるには、チェルシーがユダヤ教に改宗するか、メズビンスキーがキリスト教会での挙式を受け入れるか、あるいはキリスト教の司祭とユダヤ教のラビが同席するというパターンか。チェルシーがユダヤ教の礼拝に参加したと報じられたこともあり、アメリカのユダヤ人コミュニティーやイスラエルは「チェルシー改宗説」に色めきたっている。実際、もし改宗すれば、ヒラリーは強大なユダヤ人脈にこれまで以上の後押しを受けられることになる。

 いずれにせよ、若いカップルの結婚式の背後には、隠しきれない政治の臭いが漂っている。10代の多感な時期に父親の不倫スキャンダルという試練を経験したチェルシーだけに、余計なお世話と知りつつも、平凡でも幸せな家庭に恵まれますようにと願わずにはいられない。

──編集部・井口景子
 
このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム、年明けから最低賃金を7%以上引き上げ

ビジネス

マクロスコープ:円安巡り高市政権内で温度差も、積極

ビジネス

ハンガリー債投資判断下げ、財政赤字拡大見通しで=J

ビジネス

ブラジルのコーヒー豆輸出、10月は前年比20.4%
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story