コラム

繰り返される日本の失敗パターン

2020年05月02日(土)17時15分

安倍首相が発する「8割削減」のメッセージや不発に終わったマスク作戦など、旧日本軍に通じる失敗も Kiyoshi Ota/REUTERS

<緊急事態宣言の1カ月延長が事実上決まった。日本で新型コロナウイルスへの急激な感染拡大が起きたのは中国より2カ月、韓国より1カ月遅れで、その教訓を汲んで準備を整える時間があったはずなのに、なぜ日本の対応は失敗したのか>

5月1日現在、日本の新型コロナウイルスへの感染者数は1万4119人、死者は435人。比較されることの多い韓国と比べて、感染者数、死者数、致死率ともに日本が上回ってしまった(図1)。しかも韓国が1日の新規感染者数が1桁台になり、すでに流行をほぼ抑え込んでいるの対して、日本は毎日数百人ずつ感染者数が増えつづけている。さらに気がかりなのが致死率(=死者数/感染者数)が急ピッチで上昇していることである。図1で韓国の線をみればわかるように、感染者数の増加ペースが下がるとき、致死率はむしろどんどん上昇する。もちろん一人でも多くの命が救われることを願ってやまないが、残念ながら日本の致死率が4%を超える可能性は高い。

maruyama20200502093301.jpg

日本はこれでも欧米に比べればましという言い方もできようが、台湾(感染者429人、死者6人)や韓国に比べるとだいぶ見劣りする。「人口当たりの感染者数、死者数でみれば韓国より少ない」と言っている人もいるが、それもいずれ逆転しそうだし、人口当たりでみれば、日本は現時点ですでに中国の感染者数、死者数を上回っている。また、日本の致死率は湖北省以外の中国(0.8%)より大幅に高い。これではどう見ても東アジアのなかでは「負け組」である。

日本で急激な感染拡大が起きたのは中国より2か月、韓国より1か月遅れであり、その経験と教訓を汲んで準備を整える時間があったにもかかわらず、なぜこのような失敗に至ったのか。それについてはコロナ禍が終わった時点でしっかりと検証されることを望むが、これまで日本政府がやってきたことを眺めると旧日本軍の失敗パターンを繰り返している気がしてならない。戸部良一・寺本義也・鎌田伸一・杉之尾孝生・村井友秀・野中郁次郎の共著『失敗の本質――日本軍の組織論的研究』には、コロナ禍に直面した日本政府の行動を読み解くヒントがちりばめられている。

1.あいまいな戦略

いま日本政府とマスコミを挙げて市民に呼びかけられている戦略は「人との接触を8割削減」することである。この戦略は理論疫学のモデルから出てきたものであるが、政府やマスコミが発するメッセージとしてはあいまいである。なぜならメッセージを受け取る側に多義的な解釈の余地を残すからだ。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィリピンの大規模な反汚職デモが2日目に、政府の説

ビジネス

野村HD、「調査の事実ない」 インド債券部門巡る報

ビジネス

野村HD、「調査の事実ない」 インド債券部門巡る報

ワールド

韓国、北朝鮮に軍事境界線に関する協議を提案 衝突リ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story