コラム

日本の「経常赤字」は常態化する、そしてこれはチャンスに変えられる

2022年05月11日(水)20時00分
日本の貿易

TORU HANAIーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<貿易収支だけでなく長期的には所得収支も悪化する可能性は高く、貧困が進むとも予想されるが、この状態を受け入れた対応を取ることが重要だ>

全世界的な物価高騰を受けて、日本の経常収支が悪化している。インフレが長期化する可能性は高く、恒常的な収支悪化を視野に入れた長期的な対策が必要である。

財務省が発表した2022年1月の国際収支統計によると、海外との最終的な取引状況を示す経常収支は1兆1887億円の赤字だった。赤字は2カ月連続で、14年1月以来、過去2番目に大きい水準だった。原油価格や食料価格の高騰で輸入金額が大幅に増えたことが原因である。

日本の経常収支は、戦後、一貫して黒字が続いてきた。経常収支は大ざっぱに言えば貿易収支と所得収支で構成される。所得収支は海外への投資から得られる利子や配当収入なので、経常収支というのは、貿易で得たお金と投資で得たお金の合算と考えればよい。

昭和の時代は貿易黒字が続き、これが経常黒字に貢献していた。貿易黒字で獲得した外貨は海外投資に充当されるので、黒字の蓄積とともに海外投資から得られる収益も増加し、経常黒字の金額はさらに大きくなった。

ところが平成に入って日本企業の競争力低下が進んだことで、徐々に貿易黒字が減少してきた。05年には所得収支の黒字と貿易黒字の額が逆転し、日本は貿易ではなく投資で稼ぐ国に変貌。10年代以降は貿易黒字がさらに減少し、投資収益で何とか経常黒字を維持する状態が続いている。

日本の経常収支の状況は悪くなるばかり

こうしたところにやって来たのが、全世界的な物価の高騰である。日本はエネルギーや食品など多くの品目を輸入しており、近年の国際競争力の低下によってスマートフォンや家電すら輸入に頼るようになってきた。こうした状況で世界の物価が高騰すれば、輸入品の価格が上昇し、貿易収支を悪化させてしまう。インフレが長引いた場合、日本が恒常的に経常赤字に転じる可能性も出てきたと言ってよいだろう。

投資収益は半永久的なので経常収支は悪化しないとの見方もあるが、現実はそう甘くない。日本の所得収支の半分近くは製造業の海外移転に伴う現地法人からの利子や配当である。これは形を変えた輸出であり、競争力の低下とともに減少する可能性が高い。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、捕虜交換完了後に和平案を提示する用意=外相

ワールド

トランプ氏、日鉄のUSスチール買収承認の意向 「計

ワールド

アングル:AIで信号サイクル最適化、ブエノスアイレ

ビジネス

アングル:グローバル企業、トランプ関税の痛み分散 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非礼すぎる」行為の映像...「誰だって怒る」と批判の声
  • 4
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 5
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワ…
  • 6
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 7
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 8
    「娘の眼球がこぼれ落ちてる!」見守りカメラに映っ…
  • 9
    【クイズ】PCやスマホに不可欠...「リチウム」の埋蔵…
  • 10
    備蓄米を放出しても「コメの値段は下がらない」 国内…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 4
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 5
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 6
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 8
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 9
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 10
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story