ニュース速報
ワールド

アングル:トランプ氏の権限拡大、歯止め失い政府機関が存亡の危機

2025年09月01日(月)11時16分

 8月29日、トランプ米大統領(写真)が連邦政府機関のあらゆる業務に及んで自身の権限を拡大しようとする動きに歯止めがきかなくなってきた。ホワイトハウスで8月撮影(2025年 ロイター/Jonathan Ernst)

Trevor Hunnicutt Jeff Mason

[ワシントン 29日 ロイター] - トランプ米大統領が連邦政府機関のあらゆる業務に及んで自身の権限を拡大しようとする動きに歯止めがきかなくなってきた。8月最終週には連邦準備理事会(FRB)のクック理事、疾病対策センター(CDC)のモナレズ所長、鉄道事業を監督する陸上運輸委員会(STB)のプリマス委員に相次いで解任を通告し、そうした権限をどこかで行使できるのかを試しているかのようだ。

これらの措置からは、通常は政治的な影響から独立した立場になると見なされる機関にまで影響力を及ぼしたいというトランプ氏の願望が透けて見える。

複数の専門家は、一連の解任通告によって、民間への有益な情報や大統領向けに専門知識を提供しつつ、特定政党の政策に左右されずに業務を遂行するFRBやCDCなどへの信頼が損なわれかねないと懸念を示す。この状況を許せば、他の独立機関の足場も危うくなるかもしれない。

連邦政府の機能強化と民主主義の発展を提唱する団体「パートナーシップ・フォー・パブリック・サービス」の代表者を務めるマックス・スティア氏は、「悪い方へ向かう新たな潮流で、大統領による著しい権力の掌握を物語る。大統領には多くの権限があるが同時にさまざまな限度がある。現在の大統領にはそうした限度をわきまえていない」と指摘した。

ホワイトハウスの高官らは、トランプ氏が法的に認められた権限の範囲で行動し、有権者に託された政策課題を実行しようとしていると反論する。政権はモナレズ氏とプリマス氏の解任について、トランプ氏の政策課題にそぐわず、CDCに関しては中核的な使命に専念させることが理由だと主張した。

関係者の話では、モナレズ氏は科学的証拠と矛盾すると考えるワクチン政策変更に抵抗したもようだ。プリマス氏は、交流サイト(SNS)への投稿が鉄道と無関係のトランプ政権の政策を批判したと読める内容を含んでいた。

クック氏の場合、政権側は住宅ローンに関する不正があったと主張したが、同氏は否定している。ただ、トランプ氏はクック氏解任に別の動機があることを隠していない。26日の閣議では、FRBは間もなく自身が望む利下げに賛成するメンバーが理事会の多数派を占めるだろうと語った。

フォーダム大法科大学院准教授で、大統領権限を専門に研究するジェーン・マナーズ氏は、クック氏の理事解任が受け入れられた場合には「ドミノ倒し」が起きると警告。「もはや米国は露骨な政治圧力とは無縁の意思決定者を持つ行政国家ではなくなる」と問題視した。

<一族企業と同一視>

ホワイトハウスは、トランプ氏のやり方は適切で、一連の解任通告は妥当だとの見解を崩していない。

ロジャース大統領報道官は「トランプ政権は憲法と議会が行政府に承認した全ての権限を行使し、トランプ氏が選挙で掲げた米国第一主義の政策を実行している。トランプ氏は国民の利益を、外国や教育機関、選挙を経ていない官僚、浮世離れしたウォーク(社会的意識に目覚めた人々)よりも優先するという約束を守り続けている」と言い張る。

首都ワシントンに州兵を動員したトランプ氏は直近では、野党民主党の知事がいる中西部の都市シカゴに治安対策のために州兵を送る可能性にも言及し、「私が望むことは何でもできる権限」があると言い切った。

リンカーンやフランクリン・D・ルーズベルトら野心的な大統領は過去にも存在した。だが、トランプ氏が異なるのは上下両院を与党共和党が支配し、連邦最高裁判所判事も保守派が多数を占める中で、今のところ有力な反対勢力が乏しいことだ。

カリフォルニア大学バークレー校のダニエル・ファーバー教授(法学)は「歴代大統領は、政府機関による非政治的で専門的な判断の必要性を尊重してきた。トランプ政権にそういった判断は存在せず、トランプ氏は政府を自分の一族企業トランプ・オーガニゼーションとほぼ同一視し、同じやり方で運営したがっている」と分析した。

連邦最高裁は、トランプ氏が名目上独立的な規制機関の職員を解任できることなどを含めた同氏が主張する権限の一部を認めた一方、そうした権限がFRBに全面的な適用はできないかもしれないとの見解も示している。トランプ氏がその権限の限界点をあえて試そうとしているのは明らかだ。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米クラフト・ハインツ、会社分割を発表 ともに上場は

ワールド

イラン高官「核協議の道閉ざされず」、米のミサイル制

ワールド

最恵国待遇の世界貿易、関税で72%に減少の公算=W

ビジネス

米建設支出、7月は前月比0.1%減 市場予想と一致
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中